世界が蕩ける

『恋は時に自分の世界を変えてしまう』そんなことをたまに聞くけれど、馬鹿らしいと思う。他人に好意を寄せた程度で世界が変わっていたら、人生に於いて何度世界が変わってしまうと言うんだ。地球が爆発するレベルじゃないと、世界が変わったなんて言えないと僕は思う。そんな僕は、今日も寂しく休日を満喫していた。恋人が欲しいなんて特に思わないし、恋愛なんて無駄だと断定している。それに、僕は一人でいる方が落ち着くのだ。これは断じて言い訳などでは無い。用事があって外に出たはいいが、街中はカップルで溢れ返っている。風が大分冷たくなってきたせいか、どのカップルも身を寄せ合って歩きにくそうにしている。僕は風の冷たさよりも懐の寒さに呻いていた。風は一層強く吹き付ける。この勢いで、不景気も吹き飛ばしてほしいものだと乾いた笑いを浮かべる。流石に不景気は吹き飛ばせないが、代わりに僕の前を歩いていた女子高生のミニスカートを捲り上げた。女子高生は下にスパッツを穿いていたので、僕の無粋な希望は砕かれた。別に期待をしていた訳では無いが。女子高生は慌ててスカートを押さえる。今更そんなことをしても無意味だろうと言いたくなる。目的地も近いし、女子高生の観察はいい加減止めようか、と右を向いたところで目を見張る。

「今の子、スパッツ穿いてたね。残念だったね」

 同じ大学で、同じ学部で、同じサークルの女が立っていた。名前は……忘れてしまった。とにかく、どうしてここにいるのか、僕の横に立っているのか、それを聞こうとした。しかし、それは出来なかった。女がにっこりと笑って、こう続けたからだ。

「ずっと君と話がしてみたいと思ってたんだ」

 その瞬間、僕の目の前の景色がふわふわと色めき立った。女の笑顔がやたらと輝いて見える。何だか世界が蕩けたような気がした。身体がぽっと熱くなる。僕は何となく感じていた。これが、恋ってやつなのかな、と。

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