ニセモノ

 好きになった子に告白した。馬鹿な僕は、洒落た台詞やシチュエーションなんて思い浮かばなかったから、ベタに放課後の教室で、好きです、と告げた。僕はドキドキしながら、その子の返事を待った。心臓が張り裂けそうだった。ちらりとその子を見遣る。その子は顔を赤らめるでも、嫌な顔をするでも無く、ひたすら無表情だった。僕の身体から熱が引いていく。その子は薄紅の唇をそろりと開いて、言った。

「ニセモノでしかないあなたには興味が無いの」

 その言葉は、僕の心に深く深く突き刺さった。
 僕はとぼとぼと帰路に就く。了承されるとは到底思っていなかったが、余りにも予想外な言葉を返されて、僕は戸惑っていた。『ニセモノ』……どういう意図を持って、あの子はそんな言葉を選んだんだろう。僕は一体、何の『ニセモノ』なんだろうか。考えても、答えは出ないままだ。
 扉を開いて、ただいま、と適当に言葉を投げ掛ける。返す言葉は無い。それはいつものことだった。居間を覗くと、母が無気力にテレビを眺めていた。僕の方をちらりと見ると、あからさまに顔を顰めた。そんな態度もいつものこと。僕は特に反応もしないで、冷蔵庫から麦茶を取り出す。冷たい麦茶は、冷えていた僕身体を一層冷たくした。
 僕は自分の部屋に戻る。家族にも疎まれる僕は、確かに誰かのニセモノなのかもしれない。僕は鏡を覗き込む。そこには暗い顔をした少女が映っていた。僕は思わず、あ、と間抜けな声を出す。あの子の唇を思い出す。『ニセモノ』。――確かに僕は、ニセモノだった。『私』という殻の『ニセモノ』でしか――。

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