天使の御告げ

 その日、僕の目の前に天使が舞い降りた。純白の翼をはためかせて、ふわふわの金髪をなびかせて、慈悲に満ち溢れた笑顔を僕に向けて、僕の部屋の窓際に現れたのだ。後光が差し込んでいるかのようなその美しさに、僕は思わず腰を抜かした。そして、天使はこう言ったのだ。

「貴方は本日中に死にます」

 僕は、開いた口が塞がらなかった。


「どういうことだ」

 僕が訊ねると、天使は困った笑みを向ける。

「どうもこうも、貴方は今日が終わるまでに死ぬということですが」

 口調は丁寧だが、どこか小馬鹿にした風な言い方。僕は少し苛立ちながら、天使に対抗する。

「だから、急にそんなことを言われても信じられないんだけど。というか、あんた何なの」

 僕が天使に詰め寄ると、天使はわざとらしく溜め息を吐いて、こうぬかした。

「天使ですが、何か」

 ……こんな腹立たしい奴、天使じゃないだろ! 僕はそう叫びたかった。しかし、叫んだところでこいつはしれっとしているだろう。僕は少し考える。『死ぬ』のが真実なんだとしたら。次に訊ねるべきは一つ。

「……僕は、どうやって死ぬんだ」

 拳をぐっと握りながら、天使を睨め付ける。天使は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべたままだ。

「それはわかりません」

 天使は翼を一つ羽ばたかせる。羽根が二つ程、舞った。白い羽根はきらきらと輝いている。しかし、今の僕にはそんなもの目に入らない。僕の頭にまた血が上り始める。

「わからないのなら、なんで知らせに来たんだよ!」

 僕は遂に天使に向かって怒鳴り散らしてしまう。突然突き付けられた死の宣告に、心が制御出来なかった。天使は僕の怒りを真正面から受けても、平然としている。それどころか、きょとんと、何故自分が怒鳴られているのか、まるでわかっていない表情だ。僕は歯軋りする。

「なんで、ですか」

 天使はぽつりと呟き、そしてにっこりと無垢な笑みを浮かべる。

「気まぐれですよ」

 それはまるで、悪魔のような笑みだった。


「それではまた天界で」

 そう言い残して、天使は僕の目の前から消えた。僕に不安だけ残して。僕の身体はがたがたと震えていた。本来、こんなこと気に留める程でも無いはずなのだ。今日の僕はどうかしていた。もう眠ってしまおう。日はまだ高かったが、僕は布団に潜り込んだ。暗闇が僕を包み込む。僕がやっと安堵の溜め息を漏らした瞬間、部屋の扉が乱暴に開いた。

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