プール

 ざぼん、と飛沫が散る。ぶくぶくと沈んでいく。こぽりこぽりと空気が浮く音。目を開ける。ゆらゆらと、青く染まった世界。僕は水中に沈んでいた。もう秋と言っても問題無い気候の中、水中で一時を過ごすというのは余りにも馬鹿げてた行為だろう。実際、僕も入るまでは寒さで震えていた程だ。しかしいざ水中に潜ってみると、水温は然程低くなく寧ろ丁度いいくらいだった。だからと言って、秋に水中遊泳が全面肯定される訳では無いが。
 僕は水底を蹴り、水面へ向かって腕をかく。ざぱりと音がして、僕は水面から顔を出した。少し弱々しい太陽の光が僕を照らす。水面はきらきらと光っていて、思わず目を細めた。秋晴れの青空を見上げる。水とは違う青色は遥かに続いていた。そのままぷかぷかと浮かぶ。重力が緩くなった世界はとても心地好く、僕の内側から睡魔が呼び起こされる。このままずっと浮かんでいたいな。弛緩し切った身体は、どうにも動かし難い。すうっと瞼を下ろす。
 誰かが僕を呼んでいる。待ってくれ。もう少し、このまま。隣でばちゃばちゃと乱雑に水をかく音が聞こえる。折角このまま眠れそうだったのに、邪魔しないでほしいな。僕は隣に腕を伸ばす。そこには、きらきらと輝く笑顔の――。
 君と過ごした最後の夏も、こんな風に綺麗な青空だったね。濡れた頬を風が撫でる。あの頃とは違う、冷たい空気が僕の肌から熱を奪う。水はあの頃と変わらず、僕の耳をちゃぷりと濡らし続ける。

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