帰り道

 田舎は交通機関が少なくて困る。仕事が終わり、電車に揺られ、最寄り駅で下車し、駅前のバス停で時刻表を確認したら、数分前にバスは発車していて次のバスまで一時間後ときた。なんてタイミングの悪い。もう少し考えて運行してもらいたいものだと心中で愚痴りながら、歩き始める。駅前のロータリーは車どころか人っ子一人おらず、ここが随分寂れた街なんだなと改めて思わされる。とぼとぼと歩いていると、あっという間に駅前通りを抜けてしまい、眼前に田園風景が広がる。夏がすっかり過ぎ去り、秋と呼ぶべき季節になった今は、黄金色の稲がゆらゆらと実っていた。こういうものを眺めていると、季節を身近に感じる。都会の機能的な街作りにはやはり憧れるが、季節と一体になる感覚は田舎ならではだろう。だが僕は機能的な方が良いなと考えながら足を進める。不意に虫が目の前を横切る。どうしてこう虫というものは、顔の近くを横切るのか。多少苛立ちながら、顔の周りを手で払う。四方が田んぼで囲まれているせいなのか、虫がやたらと飛んでいた。気に留めるからいけないんだと思った僕は、携帯を取り出す。ロックを解除したところで溜め息を吐く。圏外。僕は諦めて携帯をポケットにしまう。……こういうことこそ、田舎ならではだな。僕は顔を上げる。瞬間、風がざわりと僕の周りを駆け抜ける。黄金色がぱたぱたと揺れる。虫は風に流されてどこかへ飛んでいく。その向こうでは、太陽が赤く煌めく。日没まであと数分のようだった。

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