一般人の戯れ言

『お姫さまは怪物に食べられてしまいました』

 そんな一文で締められた目の前の紙面。所謂バッドエンド。僕は顔を上げる。

「随分と酷いオチだね」
「いいじゃん。現実はフィクションより惨いよ」

 ソレよりも、と文筆家志望の友人は僕の手元の紙を指差しながら言う。確かにそうかもしれないけど、と僕は思う。

「物語の中でくらい、夢見てもいいんじゃないかな」

 やっぱり人は、胸糞悪い話よりも、スッキリ心地好い話を求めるだろう。そう僕が主張すると、友人はわかってないなとばかりに溜め息を吐く。

「中途半端に夢を見させても、いずれ現実にぶち当たる羽目になる」

 俺のように、と友人は自嘲する。彼は学生の時分から文筆家を目指していたが、未だに文筆家『志望』のままだ。目の前の現実に、なるほどと納得しつつも僕は口を開く。

「現実と妄想の区別が付いていれば、そういう衝撃を受けることも無い」

 友人は、そうだね、普通はそういうものだよね、と空笑いする。

「俺も普通に生きていたら、こういう結果には至らなかっただろうな」

 友人は僕の手元から紙束を奪い、躊躇うこと無く真っ二つに裂いた。普通になりたい。普通の人間になりたい。ぶつぶつと呟きながら、友人はノートパソコンに向かう。こんな生き方は嫌だ。そう言いながら、キーボードをカタカタと鳴らす。また飽きずに文章を書いているのだろう。
 そういう君も、大多数の『普通』に分類されると思うよ。僕は気付かれないように嘲笑い、冷めたコーヒーをくいと飲んだ。

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