指切り

 約束だよ。少女は言った。絶対に絶対に、破らないでね。絡めた小指に力を込めながら、少女は強く言った。わかってるよ。少年は言った。君との約束を破るはずが無い。絡んだ小指をじっと見つめながら、少年は確かな口調で言った。そこで、二人は顔を上げる。視線が絡まり、二人は同時に微笑んだ。指切りげんまん、嘘吐いたら――
 それからすぐに、二人は離れ離れになってしまった。幼い頃の、拙い約束。二人とも時間の経過と共に、そんな細やかな記憶はどこか遠くへ消えてしまった。
 十年の月日が流れて、二人は高校生になった。そして偶然にも、二人は同じ高校に入学した。少年は少女に気付かない。しかし、少女は少年を見ていた。ずっと、ずっと。だが、少女は少年に話し掛けることはしなかった。少女は待っていたのだ。少年から声を掛けてくれることを。あの日の約束と共に……
 それから一年程経ったある日、少年は女生徒に告白された。少年も、その女生徒が好きだったため、その場で承諾した。そして、少年は女生徒と付き合い始めた。人生初めての恋人、ということで、少年は数日の間浮かれていた。危機察知能力が著しく低下する程に。
 少女は少年を呼び出した。呼び出された少年は、訳のわからないまま疎ましそうな表情をしていた。少女は問う。約束、覚えてる? 少年は答える。何の話してるんだ。少女は問う。約束、覚えてる? 少年は苛立ち声を荒げる。だから知らないって! 途端、少女の顔から色が消える。……嘘吐き。少年は逃げ出そうとする。それを少女は捕まえる。少年は何か言おうと口を動かす。しかし、乾ききった口内からは、何の音も発せられなかった。少女は言う。嘘吐いたら……。少女の右手が鋭く光る。少年はそれが何か認識して、一瞬で負のイメージが湧いた。逃げないと……。でも、逃げられない。少女は笑った。指を切らないと、ね? 少女の右手の刃物が、少年の小指に向かって降り下ろされた。

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