衝動

 それは、正に『衝動的』だった。間近には奴の顔がある。驚き瞠目した間抜けな顔。その左右には俺の両手。自分でも何が起きたのかわからなくて、微かに震えている。奴の澄んだ目玉に俺の顔が映っている。なんだ、俺の方が間抜けな面じゃないか。奴は瞬きを一つしたから俺に問い掛ける。

「何でオレは押し倒されてるんだ?」

 そんなのこっちが聞きたいくらいだ。そう。俺は、同じ男であるこいつを、押し倒していた。理由は、わからない。ただひたすらに、衝動的としか言いようがない。不慮の事故とかでもない。ある意味事故と言えるようなものだが。とにもかくにもこうなるに至った回想をしてみる。
 今日は一日、俺は家でだらけていた。大学もバイトも休みで、久々に休日を無駄に過ごしてみようと思い至ったのだ。そんな中で、唐突に扉を叩く音が響く。嫌な予感に足は渋ったが、仕方なく扉を開けてみると、奴が立っていた。右手を上げて、暇だったから来てみた、などとほざいたのだ。俺は溜め息を吐きつつも家に上げた。奴が一方的に愚痴をぶちまけて、俺はそれを流しながらつまみを貪っていた。そうして数時間が過ぎた頃、奴が、オレの話聞けよ! と喚き出した瞬間、俺の中の何かが切れて、俺は奴を押し倒した、という訳だ。
 こうしてみると、全面的に奴が悪い。そうだ、俺は何一つ悪くない。ある意味正当防衛だ。一人納得していると、俺の下にいた奴が何やら呻き出した。そういえば、まだこいつを押し倒していた。早く退いてやろう。俺が身動ぎした瞬間、奴はとんでもないことを口走った。

「オレお前のこと好きかも。性的な意味で」

 ……流石に俺の思考はショートした。何言ってるんだこいつ。性的な意味でとか、こいつはゲイだったのか。俺がパニックになって固まっていると、奴はにんまり笑った。

「伝えるつもりは無かったんだけど……まあ、衝動だな」

 奴は俺にデコピンして、何も無かったかのように、早く退けよ、と吐かす。終始こいつのペースに振り回されっぱなしだ。俺は蟠った苛立ちをぶつけるべく、退くついでに金的を食らわせた。

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