郷愁は流れていく

 窓から射し込む日差しはまだ強い。生身の腕がじりじりと焦がされる。窓の外には、前から後ろへ次々と景色が流れていた。僕は電車に揺られていた。地方であり、何も無いこの一帯を走る電車に乗る人は多くない。平日昼過ぎとくれば尚更だ。現に、車内には僕の他に二人いるだけだ。冷房の音と、電車特有の走行音が鳴るのみ。僕はひたすら田園が広がる景色を眺め続けていた。車内アナウンスが鳴り、暫くして電車は止まる。人が出て行く気配がして、遂に車内は僕一人きりになってしまったようだ。電車は再び走り出す。窓の外は変わらずのどかな緑色が広がっている。僕も、あの中を駆け抜けていた時期があったな、とふと思い出す。毎日日が暮れるまで、友人達と外を走り回っていたな。一度思い出すと、連鎖的に記憶が脳内に溢れ出してくる。近くの林に行ったこと。田んぼの中に入って怒られたこと。小学校の校舎。昇降口。グラウンド。体育館。もう久しく会っていない友人。好きだった少女……。煌めいていた思い出達が溢れ返っては消えていって。僕はどうしようもない郷愁に浸った。あの頃の僕が、描いていた夢。子供らしい、ありふれていて大それた夢。それも今は、羨ましい、と思う。どこまでも広がる未来に胸ときめかせていたあの頃。もうあの頃には戻れないのだ、と思うと僕は何とも言えない寂しさに襲われた。しかし、過去を羨んでいても仕方無い。僕は、このどうしようもない今を生きるしかないのだ。僕は瞼を閉じる。瑞々しい緑は、もう目に入らなかった。

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