利己主義者と友人A

 自分の欲望に忠実に生きる。なんて素晴らしいことなんだろう。素晴らしいことだからこそ、それを実現させるのは難しいのだ。
 でも、俺はそれを叶えたい。ならば、周りを顧みなければいい。自分に降り掛かる評価など無視してしまえばいい。周りの事情など考慮しなければいい。
 その程度の犠牲で済むならば、喜んで差し出そう。俺は何よりも、自分の欲望に忠実に生きたいから。

「――というのが俺の理想なんだけど。君はどう思う?」
「随分無茶苦茶で気持ち悪い妄想だね。諦めたら?」

 俺が自分の理想の世界を友人Aに語り聞かせたところ、奴はそれをあっさりと一蹴した。なんて非情な奴なんだ。もしかすると、俺より酷い人間なのかもしれない。しかし、俺はそんなもの意に介さない。理想を現実にするためには、多少の犠牲が必要なんだから。俺は仰々しく溜め息を吐く。反撃開始だ。

「酷いね、君は。仮にも俺の友人Aだろ?」
「友人Aって何だよ。そんなおかしな妄想を滔々と語る奴を、僕は友人とは思いたくないね」
「酷い!」

 友人Aの余りの冷たさに、俺はうっかり心が折れそうになる。だが、俺はめげずに捲し立てる。

「君は、数少ない友人の俺を蔑ろにし過ぎじゃないか? そんなことばっかりしてると、友達いなくなるぞ。寧ろいなくなれ! 俺はお前の友人じゃない!」

 俺は迫真の演技で、友人Aを責め立てる。しかし、友人Aは一切気に留めず、携帯を弄りながらこんなことをほざく。

「別に友人を常日頃から大切に扱う必要は無いだろ? 僕だって、相手が良い奴ならもっと丁寧に応対するさ。で、お前が友達止めるって言うなら、止めるけど」
「えっ……」

 予想外の答えに、俺は言葉を無くす。茫然自失としていた俺に、奴は相変わらず携帯を見たまま、怠そうに答える。

「冗談だよ。七割程本気だったけど」
「どこまでが本気!?」
「さあ」

 何とも曖昧な返事をされる。俺はすっかり困憊していた。

「君と話してると疲れるわ……」
「なら話し掛けて来なければいいじゃん」

 きっぱりと、正論を述べられた。それが何だか悔しかった俺は、反論する。

「折角俺が話し掛けてやってるというのに、その言い種は無いだろ!」
「その上から目線は不愉快だ」
「ですよねー」

 最早何も言い返せなかった。俺はこいつに勝てないのか。悔し紛れに俺は一言吐き捨てる。

「君は随分と利己的だな」

 そこで友人Aは、やっと俺の方を見て、笑った。

「人聞き悪いな。自由奔放と言ってくれ」

 そんな言葉では収まらないだろうが、と俺は心の中で呟いた。

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