NOVEL

路地裏と猫 1 (1/3)

はあ。と、人気の無い路地裏からため息が聞こえた。
そのため息の主はしゃがみ込んでおり、路地裏という言葉からは連想しにくいような外見をしている。一言で言ってしまえば幼い少女のようであった。しかし年齢的には少女と言うよりは女性であり、今年成人式を迎えたばかりである。
そんな彼女個人の事情はおいておこう。何故彼女が路地裏で一人しゃがみ込んでいるのかというと、その日一日が彼女にとってとても憂鬱な一日であったからなのである。
ついていない日というのはあるものだ。その日は自分が何をやってもやること全てが裏目に出てしまい、なにもかもが上手くいかない。今日はそんな日であるらしく、通っている大学の講義も午前だけで全て終わったのだが心身共にクタクタであった。
生来鈍くさく要領の悪い自分は、何をやろうにも基本的に結果が人より劣ってしまっていた。それをなんとかしようと努力を試みるも、その努力が空回りしてしまいあまり良い結果にならないことが殆どである。もっと頑張らなきゃなぁ……と日頃から思ってはいる。いるのだが、『もっと頑張る』というのがどの程度のものなのかが自分でも分からなくなってしまう。どれほど努力すれば頑張ったと言えるのだろうか。自分としては頑張ったと思っているのだが、もしかしたら周りの皆の方がもっともっと努力しているのかもしれない。自身の努力が皆に追いついていないだけで。一度マイナス思考に陥ると中々元に戻すことが困難なので、ひとまず自分に出来ること一つ一つをちゃんとやっていけたらいいなと。
そう路地裏へ入って、人混みを避けながら一人物思いに耽っていたのである。
何故路地裏へ入ってしまったのかと言えば特に理由は無い。あるとすれば、彼女本人が可能であれば人混みを避ける傾向があること。もう一つは、考え事をするきは無意識に人混みから足を遠ざけてしまう傾向があると言うこと。この両方の条件が合わさった場所が路地裏だったのだ。平日の日中であったし、あまり危機感はない。

と、そんな時だった。路地裏の少し奥から、ひたりひたりと小さな足音が聞こえてきた。猫だ。体格の小さな臨音でも抱きかかえられる程度の大きさの猫だった。手を伸ばして頭を撫でると、吃驚したのか少し身体を強ばらせていた。しかし逃げまではしなかったので、両手で抱えて一頻りもふもふと猫の毛並みを堪能してやった。
その猫はグレーの色をしていて、その髪質は多少ぼさぼさだった。しかし毛並みが悪いというわけではなく、撫でてやればふわふわとしていて抱き心地も良かった。首輪はしていなかったので、恐らく飼い猫ではないのだろう。それに野良と言うほど汚れたり窶れている感じも無かった。それとも飼い主が首輪を付けない主義だったのだろうか?そんなことを考えているうちに時間は過ぎていく。期限がまだあると言うだけで、やらなければならないこともある。そろそろ帰らなくては、また『努力が足りなかった』などと言って落ち込むのは自分なのだ。やることをやらねば。
結局その猫は暴れることもなく、路地裏に居る間ずっと撫でられていてくれた。元々猫が好きだった臨音は、アニマルセラピーの効果と言わんばかりに気持ちが解れた。しかし生憎、今は猫にあげられるお礼の品などは持ち合わせていない。せめて今度来る時は猫缶か何か、猫が好きそうなものを持ってきてみよう。そう思いながら「またね」と猫に声をかけ、路地裏をあとにする。
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