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笑裏蔵刀の思い


背中をとんと押される感覚に、リサは思わずたたらを踏んだ。
美味しい食事に舌鼓を打ち、良い気分で店を出ようとした時にその仕打ちだ。
突然そんな行動を取った人物に抗議するために、リサは背後を振り返る。
そこには大型のドーベルマンのようなポケモンが一匹、行儀よくお座りをしていた。
普通の犬との相違点はといえば、その大きさと、くるりと曲がった角、背には肋骨を思わせる装飾があることだろうか。
よくよく見てみれば、尾も長く伸び、しかも先端は悪魔の尻尾を思わせる尖りが見受けられた。
一見すれば恐ろしい生き物以外の何者にも見えないだろう。
実際、リサの横を歩いていた九十九は小さく悲鳴を上げて両手を落ち着きなく組んでいる。
リサ自身も、初めて見る強面のポケモンに心臓が早鐘を打っていた。
そんなリサの心情の変化を機敏に察したのか、そのポケモンはすいっと瞳を懐っこく細める。
その口元に柔く喰まれたきれいな布に、リサは目を丸くした。


「それ、もしかしてわたしのハンカチ?」


リサが問えば、そのポケモンは嬉しそうに二回頷いた。
はて、いつの間に落としたのかと首を傾げるリサに、ポケモンはハンカチを渡すように顔を持ち上げる。
くいっと持ち上げたその喉元には、ずたずたに切り裂かれたような傷跡が生々しく残っていた。
思わず動きを止めたリサに押しつけるようにハンカチを渡したそのポケモンは、満足そうに一つ頷いた。
リサが落とし物を受け取ったことを確認したそのポケモンは、颯爽と立ち上がり一人の男性の元へと歩みを進める。
栗色の痛んだ髪に、濃褐色の垂れ目。
柔和な顔に笑みを浮かべ、そのポケモンの頭を撫でている。
ふっと顔をあげたその男性と目が合い、リサは慌てて会釈をして彼に近づいた。
先ほどのポケモンが彼のポケモンであることは一目瞭然であった。


「あの、ありがとうございました」


頭を下げて丁寧にお礼を言えば、男性は不思議そうに目を瞬かせた。
リサのその手に握られているハンカチを見て、合点がいったらしい。
いいんだよ、と柔らかい笑みを浮かべた。


「こちらこそ急にヘルガーが突進して驚いたでしょう?ごめんね」

「いえ!親切にありがとうございます」

「ありがと!」


リサの真似をするように揃って、琳太はお礼の言葉を口にした。
まるで親の真似事をする子どものように愛らしいのその姿に、男性も頬を弛ませた。
穏やかな空気を纏う男性に、リサの肩の力が自然と抜けるのが手に取るように分かる。
まるで自身も褒めろとでもいうようにリサの手に頭をすり寄せたヘルガーも、緊張を解く要因の一つだったのだろう。
人のポケモンを勝手に触ってもいいのか躊躇うリサに、ヘルガーは遠慮無く擦り寄った。


「良かったら撫でてあげて?この子見た目に似合わず人懐っこいから」


瞳を細めて笑う男性に促されるように、ヘルガーの首元を撫でる。
リサの手に気持ちよさそうに瞳を弛ませたヘルガーに、リサの気持ちも浮上するのが分かった。


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