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02


リサがなまえと名乗る男性に相席に誘われたのは、むしろ自然な流れであった。
なまえはリサには熱い紅茶を振る舞った。
一方なまえは、珈琲の他に軽く摘めるものを頼んだようだ。
運ばれた珈琲には砂糖もミルクも入れずにカップに唇をつけている。


「リサは旅の途中なのかな?」

「はい、そうなんです」

「そう、旅はいいよね」


にこりと穏やかな笑みを浮かべたなまえに、リサは大きく頷いた。
苦労もあるが、それ以上に喜びと希望でいっぱいなのだろう。
素直なリサの様子になまえは思わずと言ったように、小さく声をあげて笑った。


「ふふ、何だか心配だなあ」

「え、どうしてですか?」

「ちょっとだけ世間知らずに見えて」


くすくすと笑みを浮かべるなまえに、リサはどきりと心臓を跳ねさせた。
ぎこちなく眉を下げ、笑みを作ったリサは紅茶のカップの縁を指でなぞっている。
そわそわと落ち着きのないリサに、なまえはふと真剣な表情でリサを見つめた。
濃褐色の瞳が不自然に光を反射している。


「最近はプラズマ団とかいう、怪しい団体もいるから」


その言葉に、リサはとうとうぎくりと動きを止めた。
思い起こされるのは、旅先で幾度と出会ってきたプラズマ団の姿だ。
そんなリサを、なまえは眉を下げて見つめた。


「きみは素直で純粋で染まりやすそうで、見ていてとても危うい気がするよ」


なまえは席に備え付けてあるミルクを持ち上げると、そっと自分のカップに注ぎ入れた。
黒々しい液体に真っ白な液体が分散し、やんわりと色を変える。
どこか芝居がかったその仕種に、英はボールの中で眉間に皺を寄せた。


『おい、なんか胡散臭いからあいつをあまり信じすぎるなよ』

「え?」

「どうかした?」


低く唸るようなその声に反応したのは、リサとなまえの足元にいるヘルガーだけだった。
不思議そうに声をあげたリサに、なまえは首を傾げて問う。
彼にはポケモンの声を理解することが出来ないのだ。
リサは慌てて首を左右に振った。


「な、なんでもないです!」

「そう?おっと……ごめんね、電話だ」


そう言うとなまえは、一言断りを入れると右手でライブキャスターを取り出した。
発信を告げるコール音がけたたましく鳴り響いている。
タイミングよく鳴った電話のコール音に、英がこれ幸いとリサを急かした。


「あ、じゃあわたしたちそろそろ行きます!紅茶ありがとうございました!」

「どういたしまして。またね、リサ」


慌ただしく席を立ったリサに、なまえは変わらない柔らかな笑みを浮かべて手を振った。
去っていくリサの背を見送り、なまえはテーブルの下に置いていた左手を取り出す。
その手にはもう一台、ライブキャスターが握られていた。
左手のライブキャスターを操作すると、右手のライブキャスターも途端に静寂を取り戻す。



「ナキ、サヨ、ご苦労様」

『大したことじゃないデスヨ。たかが人間の荷物からハンカチを盗むことくらイ』


ボールをかたりと鳴らしたナキと足下で一度ゆらりと尾を揺らすサヨに、なまえはゆるりと瞳を細める。
空々しい笑みを浮かべた口元を、そっと珈琲カップで隠した。


「甘いね」



End


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