造花 | ナノ

ぱちぱち


ある日目が覚めると、そこにガキがいた。
ああ、嘘じゃない。嘘じゃないからな。
決して、あいつに言われて徹夜した目が狂ったとか頭が沸いたとかそんなんじゃない。
一応目頭摘んで頭抱えたけど現実は何も変わらなかった。
ただそこに、白い髪したガキがでかい瞳で俺を見ている。
なんなんだ、なんなんだこいつは。
どうやって俺の家に紛れ込んだんだこいつ。
昨日はちゃんと鍵を……閉めなかったかもしれないが、だが常識的に考えて勝手に人の家に入り込むか?
って待ておい、こいつ土足じゃないか。靴を脱げ。
もう手遅れだがこれ以上床を汚すな。

段々色んなこと考えて面倒くさくなってきたところで、固まってたガキがやっと動きを見せた。
ぱちぱちと目を瞬かせ、長めの睫毛を震わせる。
黒い大きな目がはっとしたように見開かれた。
おい、そのままこぼれ落ちるんじゃないか?ないか。


「ゆうかい!」

「帰れ不法侵入者、出口はお前の後ろだ」


何てこと言うんだこのクソガキ。
たっぷり数分は固まって絞り出した答えがそれか。
人んちの床、盛大に汚しまくって出した答えがそれとかふざけんなよ。
めんどくさいから言わないだけでお前に文句は山ほどあるんだからな。
何でお前がそんな不満そうな顔するんだ。俺のが不満だ。


「人にゆびさしちゃめっ」

「人んち勝手に入ったお前ももれなくめっだ」

「おじさんきもちわるい」

「やかましい」


俺だって思ったっつーの。
それより俺はまだおじさんじゃない、ギリ二十代だ。
そしてここでどうでもいい事実が判明した。
こいつ女だ。声で分かった。ほんとにどうでもいいな。
とりあえずあいつが来る前に追い出さないと面倒なことになるのは目に見えている。
早く追い出さないといけない。
靴を脱がして玄関まで促し、そして追い出す。完璧。
めんどくさがりな俺にしては完璧だ。ちゃんと玄関から出してる。
警察に突き出さない辺りが優しいな。
あ、やっぱり靴脱がすのめんどくさい。
いいや、抱えて玄関から放り出そう。


「よし、帰れ」

「うわー!はなしてー!!」


脇から手突っ込んで抱え上げたら、このガキすごい勢いで暴れ出しやがった。
あ、蹴りいれんな。地味に痛い。
めんどくさくなって、ちょっと“念力”使う。
流石にこれには逆らえないのか、ガキは漸く俺を蹴るのを止めた。
……ああ、疲れた。今日はいつになく疲れた日だ。
こんな日はもう納品したら寝てしまおう。そうしよう。考えるのもめんどくさい。
それよりこのガキ静かすぎないか?俺口は封じてないんだけど。

小脇に抱えたガキが口すら開かないのをちょっと疑問に思って視線を下げたのが、このときの俺の一つ目の間違いだった。


「……うっ、ふえ」

「……」


唇噛みしめて、でっかい目に涙ためて。
まあ、なんつうか、泣きそうだった。
うわ、やばい。これ俺のせいか?俺のせいか。
どうしよう、めんどくさい。
でもこれで本泣きされたらもっとめんどくさい。
流石に放り投げた外で泣かれたら俺でも心痛む。
とりあえず慰めようと抱えてない方の腕を伸ばしたら、玄関のドアが開く音がした。
軽快な足音に思わず動きを止めた俺。多分これが本日二つ目の間違いだった。

部屋にいつも通り勝手に入ったあいつの目に写ったのは、泣きそうなガキ抱えてる俺だ。
お互い、目を見開いて固まる。
これは果てしなくやばい。
この硬直が解けたら、きっと想像以上に面倒くさい展開が待っているはずだ。
ああ、本当にどうしてくれよう。


「ま、まさかお前が幼女趣味だったなんてー!!」

「!う、うわあああああああん!!」


大声上げたあいつに、とうとう涙腺が崩壊したのか。
小脇にしてるガキまで泣き出した。
めんどくさい……果てしなくめんどくさい……。
もう全てを放って引きこもりたい。
ああ、でもその前に一つ物申さなきゃいけない。
お前、今まで俺をどんな目で見てやがったんだ?

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