造花 | ナノ

ふわふわ


今日もシオンといっぱいいっぱい遊んで、気がついたらおひさまがしずんでた。
シオンはわたしが知らないこと、たくさんたくさん知っててとってももの知り。
字がよめないわたしに字を教えてくれるけど、なんだかむずかしくて勉強はたのしくない。
でもシオンがしてくれるおはなしは、どれも聞いたことがなくてとってもたのしい。
気がついたらまわりは暗くなりはじめてて、帰り道はいつもはしってる。
暗くなる前に帰るって、セージと約束したの。
わたしには少しだけ高いところにあるドアノブを、うんとせのびしてつかまえる。
ぐっと重いドアをおせば、なんだかふわっといいにおいがした。
セージがごはん作る時はこんなにいいにおいはしない。
今日はノアがいるのかな。
うれしくなってリビングのドアをあければ、ぱーんって大きな音がなった。
びっくりして肩がはねて、ひらひらと何かがわたしのあたまに落ちてきた。
そうっとあたまに手をのせて、のっかっているものにさわってみる。
小さく切られたいろんな色の紙がてのひらにくっついていた。


「あははっ、キナリちゃんびっくりした?目がまんまるになってるよ」


さんかくのつつみたいなのを持って笑っていたのはノアだ。
ノアがもってるさんかくのまわりには、飛んできた紙がいっぱいおちてる。
さっきの音はきっとあれからなったんだ。
楽しそうにわらうノアのちょっと後ろでは、セージがためいきをついていた。


「だから言っただろ、クラッカーなんてやっても喜ばないって」

「うん、予想通りの反応だったね」

「分かっててやったのかお前」


ノアが持ってるさんかくのは、クラッカーっていうみたい。
どうしてあんなに小さいのにあんなおっきい音がしたんだろう。
それにこの小さい紙はなに?
聞いてみたくてうずうずするけど、いつの間にかノアがわたしのうしろに回り込んでいて、ひょいってだっこされた。
なんだかたのしそうに笑って、ノアはわたしをいすの上にのせる。
じめんにつかない足をぷらぷら揺らすと、ノアはくすって小さく笑い声をあげた。


「ちょっと待っててねキナリちゃん」


わたしの生成いろのかみをくしゃってなでたノアは、台所の方へいってしまった。
なんだろう、なんだろう。
今日はいつもよりいいにおいがするし、ノアはたのしそうだし、なんだかやさしい感じがする。
そわそわしながらノアを待ってれば、わたしのとなりにセージがすわった。
いつもはわたしの前にすわるのに、どうしたんだろう。
じいっとセージを見ていれば、ぺちりと軽くセージにおでこをたたかれた。
あ、なんか今のシオンに似てる。


「楽しいか?」

「なにが?」

「ここで暮らすの」


ほおづえをついてるセージの目が、なんだかしんけんで思わず背すじがのびる。
なんでそんなこと聞くのかわからない。
わからないけど、なんだかとてもだいじなことかもしれない。
まちがえたら、もういっしょにいられないかもしれない。
そんな予感。


「俺はお前のこと放って置きがちだし、うまい飯も作ってやれない、最近は友達出来たみたいだけどこないだまで随分暇してただろ?もっとちゃんとしたとこで暮らすのも悪くないんじゃないかと思ってな」


どうだ?ってセージは聞いてくる。
そうだけど、そうだけど、ちょっと考えてみる。
今までよりごはんがおいしくて、おへやがきれいで、もっとにぎやかなところ。
たのしそうだけど、だけど、そこにセージがいなかったら?


「わたし、今のままでいい。セージがいい」


きっと、とってもつまらなくて、ずっとずっとさびしいままだと思う。
ごはんは、きっといつかわたしが作れるようになるの。
かまってくれなくても、セージがおしごとしながらわたしを気にしてくれてるの、知ってる。
いつかひみつがばれて、わたしがいられなくなるときまでは。
せめてそれまではいっしょにいたいなあ。


「そうか、分かった」


セージは小さくそういうと、ひさしぶりにわたしのあたまをなでてくれた。
ノアよりぎこちなくて、でもおっきくてあったかい手。
わたし、この手がだいすきなの。
自然とえがおになるほっぺたを、セージはちいさくわらった。
やさしいかおだ。
うれしくなってもっとえがおになると、セージはわたしのあたまから手をどけた。
もっとなでてほしいのに。


「ほら、やる」

「?」


やるって言われて思わず両手を差し出せば、わたしのてのひらに白いばらがころんと落とされた。
ばらの花にはみどりの葉っぱがついていて、つるりとしていて、これは造花なんだろう。
ばらとセージのかおを何度も見る。
やるって、やるって、これを?セージがわたしにこれをくれた?


「それなら緑があるから、白いお前の髪にも映えるだろ」


ゆびさきにこつりとあたった金属に、これはかみかざりなのだと教えられた。
セージが、セージがはじめてわたしにものをくれた。それも白いばらの造花。
わたしがほしいって言ったばらの造花。
セージはちゃんと覚えてくれていた。
うれしくてうれしくて、かおがあつくなるのがよく分かった。


「ありがとう、ありがとうセージ!わたし、これ大切にする!ぜったい、ぜったいよ!」


ぎゅっとだきしめるようにすれば、なんだかほんのりあたたかく感じた。
もらったばらを見つめる。
つやつやしてきらきらしてて、本物よりずっときれい。
両手ですくうように持っていれば、ノアが料理を持って戻ってきた。


「キナリちゃん嬉しそうだね?どしたの?」

「ノア!ノア!見て!セージがくれた!セージがくれたの!!」


ことんってテーブルに料理を置いたノアにかかげて見せるようにすれば、ノアはびっくりしたみたいに目をまるくした。
そしてすぐにセージを見て、にやにやわらう。


「よかったねー?こんなに喜んでもらえて。すっごい悩んでたもんねえ?キナリちゃんの誕生日プレゼント」

「うるさい」


いじわるにわらったノアに、セージはつんとそっぽをむいた。
照れてるのかな。
ずっとにやにやしてるノアに、とうとうセージがノアをけった。
すねをおさえているノアに、ちょっとしたぎもんがわく。


「誕生日プレゼントって、どうしてわたしに?」


そういったとたん、ノアはセージを見つめて、セージはあさっての方向をむいた。
なんだろう、聞いちゃだめだったかな。
しばらくセージを見つめていたノアは、ふかいふかいためいきをついた。


「あのね、今日はキナリちゃんの誕生日なんだよ」

「えっ」

「セージが決めたんだよ。キナリは春の始まりの日がいいって」


ノアのその言葉につられてセージを見るけど、セージはまだどっか別のとこを見てる。
誕生日、ちゃんと考えてくれてた。
今日はうれしいことがいっぱいありすぎて、なんだかむねがくるしい。
どきどき、どきどきする。
ぎゅっとワンピースのすそをにぎると、少しだけ落ち着いた。


「さーて素直じゃないおっさんは置いておいて、誕生日パーティしようか。今日はキナリちゃんのためにケーキ焼いたんだ」

「ケーキ!」


そんな気持ちも、ノアのごはんと共にすっかり忘れてしまった。

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