造花 | ナノ

しとしと


最近温かくなってきたなと思っていたら、今日空から降ってきたのは雪ではなく雨だった。
少しずつ少しずつ、寒さの厳しいこの地方も冬から春へと移っていたらしい。
今日の雨で、きっと名残雪は全て溶けて消えゆくだろう。
嬉しい限りだ。冬は手先がかじかんで上手く作業できないから助かる。
まあ、最近友達が出来たらしいキナリは遊びに行けなくてむくれているが。


「あめあめざあざあ……」


窓に手をついて外を眺めているキナリは、頬を膨らませている。
分かりやすいやつだ。今日は遊ぶ約束でもしていたんだろうか。
キナリの頭上では布で作られたてるてる坊主が不機嫌な顔をしていた。
まるでキナリの心そのままだ。
普通は笑顔のやつを作るだろうに。


「あめー!やめー!」


ついには外に向かって吼えだした。
ぶんぶんと両手を振り回して空に向かって叫んでいる。
そんなキナリを嘲笑うかのように、雨脚は急に強まった。
お前、日照り乞いじゃなくて雨乞いの才能の方があるんじゃないか。
止みそうにない雨にしょぼくれたキナリは、沈んだ顔で俺の傍にやってきた。


「セージー……あめ、」

「俺は天気を変えることなんざできないからな、分かってると思うけど」

「むー」


先手を打てばそれ以上先を言うことはなかった。
ただ拗ねたように俺の腰に抱きつき、顔を埋めた。
止めろくすぐったい。
少し身を捩れば、後を追うようにぴったりとキナリはくっついた。
だめだ、完全にへそ曲げてる。
仕方がない。少しだけ構ってやるか。
今までデコレーションしていたポケッチと道具を脇に寄せる。
これは急ぎじゃないから、別に今日やる必要はないはずだ。確か。


「キナリ」

「なにー……」


声をかければ、存外素直に顔をあげた。
その目の前に手早く作った白い薔薇の造花を差し出す。
てるてる坊主のあまりでつくったもんだから、とても商品には出来ない代物だ。
それでもキナリは期待に満ちた目でこっちを見てくる。


「作り方、教えてやるから離れろ」

「ほんと!?」


ぎゅっと俺の服の裾を握ったキナリは、きらきらと瞳を輝かせた。
ほんとってどういう意味だ。今まで俺が嘘ついたことあったか。
……適当なことはいっぱい言った気はするけど。
とりあえず一つ頷けば、キナリはぱっと離れて俺の隣に陣取った。
背中の熱がいなくなって少しだけ寒いような気もする。


「教えてやると言っても俺はそういうの下手だからな。期待するなよ」

「うん、そんなかんじする」

「……生意気言うと教えてやんないぞお前」


むにっとキナリの両頬を摘んで言えば、キナリは両手を振り回して慌て始めた。
ごめんなひゃいと、不完全な謝罪を口にして笑っている。
思ったよりも柔らかい頬から手を離し、適当に裁断した布を渡す。
危なっかしいハサミの使い方を見ながら、俺は薔薇を作り始めた。
数時間後、それなりに形になっている薔薇と、不格好な薔薇がてるてる坊主の傍に飾られた。

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