造花 | ナノ

きらきら


はじめて出たお家の外はまぶしくてにぎやかで、みんなとっても楽しそう。
あの人はトレーナーかな。ポケモンが楽しそうに人間に抱きついてる。
れんがの道はでこぼこもなくってとっても歩きやすい。
セージのお家よりももっともーっと大きいお家もたくさんあった。
でもわたしは、セージのお家みたいな小さくってかわいくって、でもあったかいのがいいなあ。

セージのことを思いだすと、さいごにみたあのめいわくそうな顔がぽんと出てきた。
セージ、おこってるかなあ。
おこってるかもしれない。あんな顔、わたしがおふろでおぼれる前に見たのとおんなじ顔だった。
いそがしいの、分かってるけど。でもさみしかったから。セージの返事がてきとうだったから。
つい、いつもみたいにだきついちゃったの。
おしごと、じゃましちゃったから、セージはもうキナリがきらいになったかもしれない。
セージにきらわれたと思うだけで、さっきまでうきうきしてた気持ちがしゅんとしちゃった。

今までとくに考えなくてもすすんでた足も、ぴったりとうごかなくなった。
やだなあ。もうセージといっしょにいられなくなっちゃうのかな。
やだ、やだよ。わたし、セージといっしょがいい。
セージ。セージ。きらわないで。
もうわがまま言わないから。ちゃんと言うこときくから。だからおねがい。

ぎゅっと目があつくなって、ぽろりとなみだがこぼれた。
息をするのがつらくなって、口からはしゃっくりみたいな声がもれた。
だめ。だめ。泣いちゃだめ。
泣かないようにしゃがみこんで、強く強くくちびるをかむ。
いたいけど、泣いちゃだめ。がまんしなきゃ。
鼻からはずっとすんすん音がするけど、わたしは泣いてないの。泣いてない。

手で顔を覆って、ひざにおでこをくっつけた。
まっくらで、何にも見えなくなって、そしたらふわっとわたしの頭に小さな手がふってきた。
びっくりしてなみだも息を止まったけど、その小さい手はずっとわたしの頭をなでてくれる。
あったかくて、やさしい手だ。
そうっと顔を上げてみれば、きらきらと光る髪が見えた。
やさしい金色のかみと、紫色の目。
わたしと目が合うと、目の前の人はあわてたように手をはなした。
ちょっとざんねん。


「な、なんだよ。泣いてねーじゃん。焦った」


ぱっと立ち上がったその人は、わたしと同い年に見えた。
テレビに出てるようなきれいな顔をしてるけど、話し方はどちらかというとセージににてる気がする。
きらきらなその子に、白いワンピースがよくにあってた。
ちょっとだけ顔が赤いから、てれてるのかな。
じいっとその子を見つめていれば、きらきらなその子は私のほっぺを袖でふいてくれた。


「こんなとこでどうしたんだよ、迷子?」

「ま、まいごじゃないよ!」


その子のことばに、わたしはばっといきおいよく立ち上がった。
目の前のその子はおどろいたように大きな目をぱちぱちさせてたけど、すぐにあっそと言った。
きょうみなさそうに目をそらしたその子に、ちょっとだけあせる。
この子はわたしをたぶんしんぱいしてくれたんだ。おれい言わないと。
その子のそらした目の前に移動すれば、その子はきょとんとした顔をした。


「あの、ありがとう!あなたの手、とってもあったかいのね!」


はじめて同じ年の子に会ったから、これでいいのかとてもふあんになる。
ぎゅっとむねの前で手をにぎってその子を見上げる。
あ、この子の方がちょっと背がたかい。いいなあ。
きらきらな目がぱちりぱちりとまばたきして、ぽかんと口があいている。
どんな顔してても、まるでお人形さんみたいでとってもかわいい。
じいっと見上げていれば、わたしの目はその子の手でふさがれた。
まっくらで何も見えない。


「なあにーいきなりー!見えないー!」

「見んな!今最高にかっこ悪いから!!」


あせったようなその声と、さっきよりもあついてのひらに首をかしげる。
んもう、急にどうしたんだろう。
おとなしくしていれば、しばらくしてその子のてのひらはそっと外された。
急に明るくなって、目が少しだけしぱしぱする。
何回かまばたきをして、まわりをみて、わたしはまた首をかしげた。


「ここ、どこ?」

「やっぱ迷子じゃねーか!」


ぱしーんといい音を立てておでこをたたかれ、ちょっとだけびっくりした。
おでこをおさえてその子を見上げていれば、その子はわたしのうでをむんずをつかむ。
そのまま、なんか絵がかいてあるかんばんの前までつれてくると、どこだときいた。


「?」

「お前んち、どの辺?案内してやっから」


仕方ないなあってためいきをついたその子は、もういっかいそのかんばんをゆびさした。
じいっとかんばんを見てみるけども、ぜんぜん分からない。
家の絵とか、公園とか分かるけど、どれがセージの家なんだろう。
道路とかにはなんか、文字と数字がかいてあるけど、よく分からないや。


「なんてかいてあるの?これ」

「……字、読めないの?」

「うん。あ、でも、本よむのはすき!」

「それは読んでるんじゃなくて眺めてんだろ」


セージのお家にあるご本はきれいな絵がかいてあってすき。
でもセージのつくる白いばらはもっとすき。
いつかほしいなあ、あのばら。


「しょうがねえなあ……とりあえず大通りまで連れてってやるから、見覚えある道があったら言えよ」

「うん!」


ちょっと先を歩くその子の手をにぎれば、びっくりしたみたいだけどいやがられなかった。
うれしくなって、ぎゅっとにぎる。
そうすれば、ちょっとだけにぎり返してくれてうれしくなった。


「わたし、わたしキナリ!あなたは?」

「シオン、シオンってんだ」


自分のなまえを言ったその子、ちょっとだけほこらしそうだった。
きっとこの子もなまえが大切なんだろうなあってよく分かる。
ちょっとだけ赤く染まったほっぺたがお化粧したみたいで、とってもきれいだった。

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