造花 | ナノ

いじいじ


最近、キナリは色々と学習してきたらしい。
例えば朝、俺を起こすときに目覚まし時計を使ったりだとか。
あんまりにも酷い食生活に痺れを切らしたノアがキナリに料理を仕込んだりだとか。
俺の仕事が忙しい時やぴりぴりしてるときは、なるべく邪魔しないように本眺めてたりだとか。
この間ノアにも言われたから一回くらい遊んでやらなきゃいけないってことは分かってる。
実際キナリはよく我慢してるし、この年にしてみれば聞き分けのいいやつだと思う。
……年齢はよく分からないが、多分五、六歳だろう。

だがまあ、俺がそんな気まぐれを起こしたときに限って馬鹿みたいに忙しくなるもんだ。


「セージー」

「……ああ」


ソファの上でごろごろと転がっているキナリの声も、悪いが適当になりがちだ。
だいたい三日前に依頼してきて納品が明日とかふざけてるにも程がある。
いつもならこんな無茶苦茶な依頼受けないんだがな。
たまに夕飯の残りをお裾分けしてくれる近所のおばさんの姪っ子が、どうも結婚だかお見合いだかをするらしい。
その時に着る服の依頼なんだが……何故だ。買うか、せめてもっと早く言ってくれ。

ガタガタと慌ただしくミシンを働かして、ここ三日で随分濃くなった隈を擦る。
気を抜いたら永眠しそうだ。


「セージひまー」

「……ああ」


キナリがばふばふとソファのクッションを叩いてる音が、壁一枚挟んだ向こうから聞こえてくるようだ。
実際キナリは俺の背後にいるはずなんだが。
だめだ、眠い。早く終わらせて泥のように眠りたい。
俺はきっと今、ノアの言葉を借りれば人一人殺しそうな目をしているだろう。
……なんだあいつ、想像でもむかつくな。これは目つきが悪いだけだほっとけ。


「セージひま!かまって!!」

「ぐえっ」


黙々とミシンをかけていた俺の背中に、ソファから助走をつけたキナリが飛び掛かってきた。
まったくの不意を突かれたため、踏ん張ることが出来ずにテーブルに前のめりに倒れ込む。
倒れ込んだ勢いで、変なところまでミシンで縫ってしまった。
ミシンの虚しい音が部屋に響く。
ああ……今、同じ場所を永遠に縫ってんだな……。めんどくさい。


「あ、セージ、あの、」

「……キナリ」


慌てたキナリは、もごもごと口を動かして言い訳をしようとしている。
もう起きあがるのもめんどくさくて、テーブルに額をつけたままキナリを呼んだ。
背中に張り付いたキナリがびくっと肩を震わせるのが分かった。


「しばらく外で遊んでこい」


ぴっと指で玄関を指させば、キナリはしょぼくれたように部屋を出て行った。
のそのそと寝かせた体を起こして、未だにがたがたと鳴っているミシンを止める。
仕方なしに、絡まるように縫われた糸を解く作業に取りかかることにした。

結局、作品が出来上がったのは夕方の四時を過ぎた頃だった。
ぐっと伸びをすれば、ばきばきと背骨や腰の骨が音をたてる。
気分的にすっきりするが、この間ノアの前でやったら痛そうとか言われた。
そんなことないんだけどな。
糸くずと共にミシンを片付けて、出来上がったドレスをハンガーにかける。
くるりと部屋を見渡すが、まだキナリは帰ってきていないようだった。
仕方ないか……半ば追い出したようなもんだからな。迎えに行ってやるか。
履きやすい靴に足を通し、今日はキナリと遊んでやるかと思っていれば、少々乱暴に玄関が開け放たれた。


「セージ!ともだち、ともだちできた!!」


興奮したように身振り手振りを使って話すキナリは、本当に嬉しそうに頬を赤く染めている。
その日以降、キナリは二度と俺に遊べと言わなくなった。

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