造花 | ナノ

ひらひら


「おはようセージ、寝起きで悪いんだけどさあちょっといい?」


目覚めの第一声が野郎の声なんて、なんて目覚めだ。
目の前でにっこにっこ笑ってるノアに嫌な予感しかしない。
思わず睨み付ければ、ノアはへらへら笑って目つき最悪だよ、と言った。
ほっとけ。


「……何の用だノア、作品は玄関に置いておいただろ」

「うんうん、相変わらず無駄に手先器用だね、よく頑張りました」

「馬鹿にしてんのか」


まるで子どもを褒めるみたいに頭を撫でて茶化してきやがる。
いらっとしたので、とりあえず蹴りを入れておいた。
見事に両手でガードされて更に苛立った。


「相っ変わらず寝起き悪いね、顔洗っておいでよ」

「うるさい」

「じゃないと布団引っ剥がして外に放り出すよ」


この真冬の中外に出すとか、こいつ鬼か。
温かい布団は名残惜しいが、ちゃっちゃと出ないと本当に放り出されるだろう。
こいつは有言実行だ。
足元に掛け布団を蹴り上げて頭を掻いて顔を洗いに行けば、ノアはにっこりと笑みを浮かべた。
ぐしゃぐしゃになった俺の布団を整えるあいつは俺の母親かなんかか。
冷たい水で顔を洗って、恐らくノアが準備したタオルで顔を拭いて、はたと思い出した。
キナリどこ行った。

時計を見れば、もう正午近くを刺している。
キナリがこんな時間まで騒がないのはおかしい。
つい昨日だって腹が減ったと叩き起こされたのに、今日はどうした。
昨日も俺の布団に潜り込んでた。
だが布団にはいなかった。


「ノア、キナリどこ行った」

「キナリ?誰それ」

「あいつだよ、白い髪のガキ」


きょとんとしていたノアだったが、すぐに思い当たったらしい。
手を打ち鳴らしてにこにこと楽しそうに笑みを浮かべた。
……なんだ、やけに上機嫌だなこいつ。


「あの子だったら向こうで着替えてるよ」

「は?着替え?」

「そ、おめかし」


にひっと悪戯っぽく笑みを浮かべたノアは、奥の部屋のドアを指さした。
あっちは物置に使ってるから、キナリが着られるような服は何一つないはずだが。
じっとそのドアを見ていれば、まるで体当たりするように勢いよくドアが開いた。
飛び出すように現れたキナリは、興奮したように頬を赤く染めていた。
ふわりと柔らかそうなワンピースの裾が舞った。


「ノア!ノア!これすごい!ひらひらする!」

「おー似合う似合う」

「ありがとうノア!ノアいい人ね!」


ぱちぱちと拍手をするノアの前で、キナリは楽しそうにくるくる回っている。
ぎゅっとノアに抱きついたキナリの頭を、ノアはこれまた嬉しそうに撫で回している。
……いったい何が起きてる。
お前らこの前まで険悪な感じだっただろ。
キナリなんかノアの目すら見ようとしなかっただろうが。


「お前キナリって言うんだね」

「そうだよ、ノア!セージがつけてくれたの!」

「よかったねー俺なんかなかなか名前呼んでもらえなかったのに」

「セージ、すなおじゃないもの」

「それは言えてる」


それがどうだ。この気安さ。
まるで前から友達だったかのように、キナリはノアにすっかり懐いていた。
部屋の隅を見てみれば、大きな紙袋があった。
まさかあれ、全部キナリ宛てじゃないだろうな。


「お前さー、キナリちゃん女の子なんだからちゃんと服とか用意してやんなきゃだめだろ」

「セージのおさがりすきよ?あったかいし」

「だーめ!それにご飯だってまともなもの食べてないだろ、お前偏食だし」

「ノアのごはん、おいしかった」


なるほど、餌付けされたのか。
ノアだからよかったものの……これが怪しいやつだったらどうするんだ。
キナリが外に遊びに行くようになるまでに教え込まないといけないかもしれない。
ノアのやつの機嫌がいい理由がやっと分かった。
こないだは毛を逆立てていかくするみたいだったキナリが手のひら返したように懐いたからだ。
そりゃ嬉しいだろうな。あいつ、小動物好きだし。


「セージ、キナリちゃんかわいいね」

「持って帰ってもいいぞ」

「それは遠慮するよ、俺だって恋人欲しいし」


コブ付きはごめんってか。
俺の持って帰ってもいい発言にむくれたキナリの頭を雑に撫でていれば、そんな返事が返ってきた。
こいつ、ますます俺んちに寄りつくような気がする。
主にキナリを構い倒しに。
それは俺としても助かるからいいんだが……。
こいつが来ると生活面がだらしないってずっと怒られんだよな……めんどくさい。

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