造花 | ナノ

わくわく


朝食も食べ終わったし、めんどくさいがそろそろ仕事でもするかと立ち上がった。
食べ終わった皿をキッチンの流しにおいて、食べカスの落ちてるテーブルを軽く払う。
じいっと不思議そうにこっちを見てるガキ……キナリはどうしようか。
とりあえず暇つぶし出来そうな本を数冊渡し与えた。
本をひっくり返したり裏返したりしてるが、まあ、いいか。
飽きたらテレビでも見てろと言えば、分かってるのか分かってないのか、曖昧な返事をした。
ソファの肘掛部分に本を置いて、キナリは楽しそうにそれを眺めている。
適当に選んだ本だったが、面白い話でも載っていたのか。
後で見てみようと思いつつ、俺は棚にしまってた作り掛けの作品を取り出した。


「それなあに?」


俺の手の中にあるものが気になったのか、キナリはちっさい体には大きめの本を抱えて、俺を見上げた。
今現在、俺の手の中にあるのはワイヤーと染色した布きれ。
テーブルの上にはグルーガンやらこてやら、これを作るのに必要なものを並べている。
興味津々ですと目に見えて分かるキナリに、俺は薄く黄色に染めた布を手渡した。
ひっくり返したり、手のひらにのせて観察しているキナリを余所に、こてを暖める。
気が済むまで観察したのか、キナリはその大きな瞳を輝かせて声をあげた。


「お花?」

「正確には花になるもの、だ」


テーブルが焦げないように、厚手の布を何枚か重ねて置く。
その上に染め抜いた花弁の形をした布置いて、こてをあてる。
こてを当てれば、ぺらぺらの花弁はふんわりとボリュームを増した。
花弁全てにこてをあて、次は花のがくになる部分と葉になる部分に細工をいれる。
隣で気の抜けた声をあげるキナリは、本なんかそっちのけで俺の作業を見つめている。
うずうずとこちらを見ているキナリに、一つため息をついた。


「……そんなに面白いか」

「うん!」

「ああ、そう……」


尋ねれば素直に頷かれて、少し居心地が悪くなる。
大の男が、こんなんちまちま作ってて変だと思わないのかこいつは。
……思わないんだろうな。なんかこいつ、どっか抜けてるし。
ワイヤーに花弁を刺して形を整えていけば、キナリは一層瞳を輝かせた。
子どもとはいえ女だし、こういうの好きなんだろうか。


「バラ?バラなの?」

「ああ、造花だ。知ってるか?」

「ぞーか?」


ワイヤーにフローラ・テープを巻きながら聞いてみれば、キナリは首を傾げた。
グルーガンでがくをくっつけて完成した白薔薇を見せれば、キナリはすごいすごいと歓声をあげた。
触ろうと手を伸ばしてきたのでキナリの手の届かないところまで持ち上げる。
そうすればキナリは頬を膨らましてむくれた。
なんて分かりやすいやつだ、こいつ。


「まだ乾いてないから触るんじゃない」

「む、けち!」

「今触ったら崩れるだろ」


崩れると言えば、慌てて手を引っ込めた。
そんなに慌てるもんでもないんだけどな。
乾かすためにテーブルに適当に放っておけば、キナリは何が楽しいのかずっとその花を見ていた。
機嫌よく鼻歌なんか歌っている。
少し調子外れなそれが、なんだかこいつにぴったりだと思った。


「セージセージ」

「なんだなんだ」


二回名前呼ばれたので律儀に二回返事を返せば、嬉しそうに笑い声をあげた。
返事はしても目線は手元に落としている。
それでも何故だか、キナリが満面な笑みを浮かべているのは分かった。


「わたし、これほしー」

「商品だからだめだ」

「えー!」


何を言うのかと思ったら。
身も蓋もない返事を返せば、叫ぶように声をあげられた。
横目でキナリを伺えば、ショックを受けたようにこちらを見ていた。
ちっさい両手が空をうろうろと彷徨っている。


「いっこ、いっこだけ……!いっこだけちょうだい!」

「だめです」

「ううううう」


クラッチやラウンドタイプのブーケだったらまだあまりをやれたんだがな。
今回の依頼はキャスケードブーケだった。
キャスケードってのは小さい滝って意味があるらしい。
その名の通り上から下へ滝のように流れるようなデザイン。
上部にボリュームを持たせ、滝の流れのように下へ蔓や花を垂らした眺めは、華麗な美しさがあるらしい。
全てネット知識だ。依頼されて調べたから詳しくは知らん。
花もたくさん作らないといけないし、組み立てるのもめんどくさい。
……仕事なら仕方ないが。


「セージー」

「……そんなに欲しいなら自分で作れ、そっちに余った材料あるから」

「!」


訴えるような目で見上げてくるもんだから。
一つため息をついて提案してやる。
そうすればぱっと顔を輝かせて、いそいそと準備を始めた。
見よう見まねで材料と悪戦苦闘している。

俺の仕事は、ネットで依頼されたものを作って売るっていう、日がな一日家にいてもいい仕事だ。
人とうまくコミュニケーションとれない俺に、ノアが提案したものだった。
出来たものはノアが依頼者のとこまで持っていってくれるし、俺は引きこもってても文句いわれない。
……コミュ障に拍車がかかりそうだ、なんて野暮なことは考えてはいけない。


「……セージ、うまくつくれない」

「練習」


まあ、自分の性には合ってんじゃないかとは思う。

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