7th! | ナノ


04



「ところでその赤子の名は何と言うのじゃ?」


爺ちゃん……もとい長老様が俺を抱きしめてる美女にそう尋ねた。
それに美女は困ったように表情を暗くさせた。
しかし俺も困った。名前なんかもう欠片も思い出せない。困った。


「それが……この子をくるんでいた布にも書いてなくて」

「ふむ……ならばミロカロス、名を付けてやるといいぞ」

「えっ」

「赤子を拾ったのはミロカロスじゃ、ならば実質その赤子の親はミロカロスじゃ」


長老様、それ結構めちゃくちゃ。
俺を拾ったばっかりに俺の親代わりとか、美女……ミロカロス可哀想じゃん。
ミロカロスまだ若いんだからさあ。
それにしてもミロカロスって、長くね?短縮しちゃだめ?


「私が、この子の親……」


おーい。何でそんな頬を赤らめて嬉しそうなの。
うそん。ミロさん、マジで?嬉しいの?え?え?マジで?
あ、結局短縮しちゃってミロにしちゃった。
まあいいか、俺が心の中で呼ぶだけだし。


「……シオン、シオンにします」


え、俺の名前もう決まったの?早くない?


「シオン……ほっほっほ、良い名じゃ」

「この子の瞳の色から取りました、とっても印象的だったので」


どうやら俺の目の色、紫苑色らしいですよ。
一瞬何でだっけとか思ったけど、俺がお願いしたんだった。
白髪ったら、美女の印象に残るような目にするなんてなかなかいい仕事するじゃんか。
だが俺を赤ん坊にしたことでこれはチャラだな。
ぜひ次会う時はつんつるりんになっていればいい。


「きゃあー!!」


例え目の色から取った名前でも、嬉しい。超嬉しい。
やっぱり名前があるっていいなあ。いや、前もちゃんとあったけど。
ありがとう、ミロ。長老様。


「あ、でもこの子♂なんでしょうか?♀なんでしょうか?」

「む、それは考えておらなんだ
しかし、シオンならば♂でも♀でも通じるのではないか?」

「でも、これから育てるには性別を知っていた方がいいと思うんです」


およよ?俺が感動に浸っている間に話しが進んでるんですが?
あ、性別か。性別の話ね。
ごめんミロ、俺男だよー。将来ちょっとめんどくさいことになるかもしれない。
でも俺、絶対ミロと長老様には反抗期しないって今決めたから。


「ふむ、確かめるとするかの」


そう言って長老様は俺をくるんでる布をぺらりとめくった。
あ、ごめんミロ。俺の息子直視させて


「おお、♀じゃ」

「まあ、本当ですか?」

「う?」


な ん で す と ?
え、♀?♀って何?あ、女のことだ。
いやいや、誰が♀だって?あ、俺か。

何だってえええええええええええええええええええ!?!?

め、めめめめ♀って女って!え、俺の息子は!?バベルの塔は!?
喪失!?うそだって俺性転換手術とか受けた記憶ないんだけど!!
……原因はあいつか。自称創造神か。白髪ロン毛か。
容姿変えるのはいいがあの白髪、俺の性別まで変えてくれましたのか。
最悪な仕事してくれたな、あの白髪。今すぐ毛根死滅しろよ。
確かに俺は美形になってモテモテになりたいと言ったがな、これじゃ男にモテモテフラグじゃねえか。冗談じゃねえぞ。


「♀ならば、勝手も分かるじゃろ」

「はい
……不甲斐ないだろうけれど、これから宜しくねシオン」

「う!!」


ミロの嬉しそうな顔が、何か、なあ……。しょっぱいぞ。
しかしまあ、ミロに警戒されずに存分に甘えられるという点では、ラッキーなのか?
いやでもなあ……。将来のこと考えるとなあ……。
俺は精神的ホモか肉体的レズかどっちかを選ばなきゃいけないのか……。
うわあ、今から憂鬱だ。
とりあえず白髪は呪う。今すぐ禿げろ。それが嫌なら俺が今すぐ毟りにいってやる。


「あら?どうしたのシオン」

「腹が空いたのかもしれぬな」

「まあ、それは大変です!」


俺がそんなしょっぱい思いをしていれば、長老様とミロが勘違いしたらしい。
いや、うん……まあ腹は減ったけどさ。
でもなんか、それどころじゃないし。俺の十七年の相棒が綺麗に消えた訳だし。


「人間の赤ちゃんのご飯って何でしょうか?」


母乳です。


「母乳じゃ」

「ぼ、母乳……私に出せるでしょうか……!?」


無理だよ。無理しないでミロ。出ない、出ないよ。
むしろ俺、そこまでして貰わなくていいから。
後生なのでどっかから粉ミルクとか粉ミルクもどき持ってきてください。お願いします。


「無理じゃのう、子を産んだ母でなければ母乳は出ぬよ」

「そうですか……では、この子のご飯はどうしたら……」

「ふむ……最近子を生んだのはマッスグマだったのう」


待って待って長老様。
人の親がそう簡単に他人の子どもに母乳分けてくれるわけないよ。
むしろ頼まないで。もしそれで了承されちゃったとき、俺いったいどうしたらいいの。
そのお母さんにもお父さんにも子どもにも一生後ろめたく生きていくことになる気がするんだけど。
俺は悪くないんだけどさ!

しかし、俺の必死の抵抗はミロの細腕にいとも容易く止められたのだった。
……赤ん坊の非力さが憎い!!


『どうしたのですか?長老様』

「おお、マッスグマよ、よく来てくれた」


来ちゃったあぁあああ!早いよマッスグマ!!そしていつ呼んだの長老様!!
当然だけど、マッスグマさんもポケモンだった。
そして大きいマッスグマの方が、多分子どもだろう二匹のポケモンを背中に乗せていた。
……ちょっと待て、俺人外の母乳飲んで大丈夫なの?


「あーうー」

『そういうことなら私に任せてください
今更二人が三人になったところで変わりはしません』

『だがお前……』

『子に罪はないわ、私しかこの子に乳をあげられないもの』


おいおい、俺がちょっと意識トリップさせてる間に何か話進んじゃってるぞ。
何て言ってるかは分かんないけどさあ。何か言い合ってるよ。
ごめんなさい。絶対俺のことだよなあ。
しかし一匹が一匹に押されてる。よし、いいぞ、そのまま断れ。


「長老様、私の乳で宜しければ、どうぞその子に与えてやってくださいな」

「おお、ほんに恩に着るぞマッスグマよ」

「マッスグマさん……!私が何も考えないばっかりに……すみません」

「謝る必要はないよ、こういう時は助け合い、よ」

「ありがとうございます……!」


断るどころか何かめっちゃ感動的に承諾された。
おいおい、完全なるかかあ天下かよ。
もうちょっと頑張れよお父さん。反対してたんだろ!?
じっとマッスグマのお父さんを見てれば、お父さんは子ども二匹と戯れていた。
現実に戻ってこいよ。そして俺を何とかして!!

しかし、俺は無情にもお母さんに抱き上げられた。美人ですね、お母さん。


「さて、私ので悪いが飲んでおくれよシオン」

「うー……」

「私達にもあんたを育てるの、手伝わせておくれよ」


ああ。ああ。嗚呼。






今日、俺は、人生で最大であろう羞恥を味わったのでした。
ありがとうございました、お母さん。
この恩は末代まできっと忘れません、絶対に。


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