7th! | ナノ


離れていても愛してる



シオンを手放したあの日から、私は無気力に過ごしていた。
毎日湖の底で過ごして、たまに顔を見せに来てくれるわたとハクリの話に耳を傾ける。
湖の底は綺麗で居心地が良くて、冷たい。
あのぬくもりが足りないの。自分で手放したくせに。
いつからか、私はあの住処に足を運ばなくなっていた。あそこはシオンの思い出が多すぎる。

こんなことなら、もっと早くにシオンと触れ合っていれば良かった。
三年間いっしょにいたのに、私はシオンと接した機会が少ないの。
もっと思い出が欲しい。残る記憶がシオンの泣いた顔だなんて、耐えられない。

ある日、数日ぶりにわたが湖に姿を表した。
少しだけ外見が変わっている。それに何だか嬉しそう。


「ミロさんミロさん、見てください!!」

「どうしたの?わた
何かいいことがあったの?」

「はい!おれ、進化したんです!!」


そうして見せてくれた原型は、立派なチルタリスの姿だった。
すぐに擬人化すると、わたはにこにこと嬉しそうに笑っている。
私も、久しぶりに嬉しくなった。


「おめでとうわた!すごく立派だったわ!!」

「本当ですか!?やったあ!!」


シオンがいなくなってから、何だか妙に大人びたように感じたわたも満面の笑みを見せていた。
ああ、今のこの笑みが年相応のわたの笑顔なのね。


「よかった、これでみんなを守れます!」

「え?」

「おれ、みんなを守りたくて強くなったんです!もうあんな思い、絶対嫌ですから」

「わた……」


大人びたと思ったわたは、もう立派に大人になっていた。
こうして湖に引きこもっている私なんかよりも、遥かに。
聞けばわたは、まだ住処にいて整備してくれているらしい。
ああ、なんて強いお兄ちゃんなのかしら。


「わた……あなた、」

「だからミロさん、ちょっとでいいので帰ってきてください
……おれ、もう一人は寂しいです」


私に、いいえきっと私とハクリに帰って欲しいから、わたは一生懸命努力をしたのね。
大人になっても、やっぱりまだまだ私から見たら子どものわた。
一人は寂しいと言った家族のお願い、聞かなきゃ家族じゃないわ。
もう、私も湖からあがらなきゃ。
それに、きっとシオンも私達がみんないっしょにいた方が喜ぶ気がするの。


「そうね、帰りましょうかわた」

「!ミロさん……!」

「わたがこんなに頑張ったんだもの……私がいつまで拗ねていられないわ」

「はい……はい!帰りましょう!!」


にっこり笑ってわたの綺麗な水色の髪を撫でれば、わたは嬉しそうに何度も頷いた。
……あら?そう言えばわた、あなた女性恐怖症はどうしたの?もしかして克服したのかしら。
気が付かない内にこんなに成長していたのかと、ほっこりした気持ちでいれば。
一瞬でわたの肌に鳥肌が立った。


「ひい!?」

「わ、わた!?どうしたの!?」

「ご、ごごごごめんなさい!話したり見るのは大分よくなったんですけど……!
さ、触るのだけはどうしても怖くて鳥肌が……!!」


青くなってがくがくと震えるわたに、私は慌てて手を離す。
久しぶりだったもので、こんな反応も何だか懐かしい。
思わず笑えば、わたは悲鳴をあげながら原型に戻って空を飛んだ。


「お、おおおおれ!ハクリさん探して連れ戻すので!!
ミロさんは先に住処に戻っててくださいいぃいいいい!!」


それだけ言うと、まるで言い逃げのようにあっという間にいなくなってしまった。
あの様子ならば、すぐにでもハクリを見つけて泣きつくくらいはするんじゃないかしら。
その光景が想像出来て、私はなんだか久しぶりに声をあげて笑った。


「ふふ、じゃあ戻らなきゃ」


ねえシオン、あなたは元気でいるのかしら。笑えているかしら。
捨てないでと言った私が、あなたを手放したことを怒ってはいないかしら。
もうあなたの笑顔も掠れてきたけれど、あなたが言ってくれた一言だけはちゃんと覚えているの。

私もあなたがだいすきよ。
だからもう暫く私は、私達は、ここであなたを待つわ。
いつかまた、会いに来てくれるって信じてるの。


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