7th! | ナノ


あの声が遠い



その日の朝、俺が感じた漠然とした嫌な予感はこれだったのだ。

俺が朝、文字通り跳ね起きたのは俺の勘が嫌なことが起こると予知したから。
俺の勘が最大に働くのは大体が災害の時のみで、今回漠然としか感じなかったのは今日災害が起こるからじゃないからだ。
それでも嫌な予感は拭えなくて、大急ぎで長老様の元まで駆けていった。
今思えば、どうしてここで住処に残っていなかったのだろうか。

長老様に一通りのことを伝え、次に住処へ戻った俺を待っていたのは、泣きながら眠るわたとジグとザグだった。
どうやらポケモンに眠らされたらしい。“ねむりごな”か“さいみんじゅつ”か。
今度は大急ぎでカゴの実を採って戻った俺は、そこで気がついた。
どこにもシオンの姿が見えなかったのだ。


「う……」

「気が付いたか、わた」

「あ、ハクリさん……」

「目覚めたばかりで悪いが、いったい何があった?シオンはどうした?」


俺の矢継ぎ早な質問に、ぼんやりしていたわたは勢いよく飛び起きた。
きょろきょろと辺りを見渡し、そして焦ったように俺に告げた。


「ハクリさん!シオンを追ってください!!多分ミロさんの所に逃げたと……!!」

「落ち着けわた、事情が分からない
いったい何があったんだ」


落ち着けるようにわたの肩を数度撫でる。そうすれば、わたは幾分かは落ち着いたようだった。
それでも顔からは焦燥の色が消えない。
そして、俺からも嫌な予感が消えない。


「人間が、人間が来たんです」

「人間、がか?どうしてまた、」

「分かりません、でも、どうやら今回はシオンが狙いだったみたいで、」


その瞬間に、俺は理解した気がした。俺が告げていた嫌な予感に。


「わた、お前はジグとザグを連れて長老様の元へ行ってくれ」

「え、どうしてですか!?おれもつれていってください……!!」

「駄目だ、お前は眠らされていたんだ
一度誰かにきちんと見て貰わないといけないだろう?」

「で、でも、でも……!!」


恐らく、シオンを目の前で見失ったことがわたを不安にさせている。
だが、強制的に眠らされていたわた達をこれ以上振り回す訳にはいかない。
何とか食い下がろうとするわたの頭を、俺は軽く小突いた。


「ジグとザグも心配だ、お前に頼みたい」

「……」

「ちゃんと待てるだろう?お兄ちゃん」


そう言えば、わたは悔しそうに唇を噛んで一つ頷いた。
それを確認して、俺は森を駆けた。今まで以上の速さで駆ければ、あっという間にミロの湖に着いた。

そして聞こえるシオンの、泣き叫ぶ声。
しかし、そこに立っているミロは、ぼうっと声のする方を見つめていた。泣いてはいない。


「ミロ、いったいどうしたんだ!シオンを追いかけなくては……!!」

「ダメよ、ハクリ」

「な」

「ダメなのよハクリ、見送らないといけないの、シオンのために」


そう言って震えた声で告げたミロに、俺は思わず口を噤んだ。
泣いてはいない。泣いてはいないが、ミロは今にも泣きそうだった。


「ダメなのよ、ダメなの、今シオンを連れ戻してしまったら、ダメなの」

「……いったい、何が駄目なんだ?シオンが、泣いている」


それでも仕切にダメだと繰り返すミロは、俺のその言葉にやっとこちらを見た。
いや、見たと言うより、睨んだ。
大きな瞳いっぱいに涙を溜めて、泣かないように、そして俺を睨んだ。


「だって!このままシオンをここに置いておいたら、シオンが死んでしまうんだもの!!
そんなの、私、いやよ……!!」


ミロの告白に、俺は一瞬息を忘れた。
どうして、ここにいたらシオンが死ぬなんてことになるんだ。
だってシオンは、毎日元気に森を駆け回っているじゃないか。


「さっき確かめたのよ、私……!あの人間の言葉が嘘ならいいって思って、確かめたのよ……
そしたらシオン、とっても痩せていたのよ、栄養が足りないの……!!
このままじゃシオン、いつか私達の前で死んでしまうわ……私、そんなの耐えられない……!!」


とうとう、ぽろぽろと涙をこぼしてミロはそう言った。
ミロの押し殺したような鳴き声が強くなる度に、シオンの叫ぶような鳴き声が小さくなる。
ああ、俺は何もかもが間に合わなかったのだ。


prev/next
top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -