7th! | ナノ


寂しさを埋める術



俺を森から連れ出した男達は、俺をどこか大きい町に連れてきた。
こんなに大勢の人間を見るのは久しぶりで、少し居心地が悪い。
わたが作ってくれた服も、ここでは大分ボロなようで人間達の不躾な目が痛い。
男達は、俺が裸足なのを見てそっと抱き上げてくれた。
それでも落ち着かなくて自然と俯いてしまう。心配そうに俺を見る男達は、本当に優しいと思う。好きにはなれないけど。


「そうだ、君の名前を聞いていなかったな
……名前を教えてくれるかな?お嬢ちゃん」

「……シオン」


小さく、絞り出すように名前を告げれば、男達は良い名前だと褒めてくれた。
嬉しくはないが、誇らしい。だってミロがつけてくれた名前だし。


「シオンちゃん、君は今日からここで生活するんだよ
初めは慣れないかもしれないけど大丈夫、みんな優しくしてくれるから」


そう言って俺を連れてきた男は、一つの建物の前で止まってそう言った。
少し古びてはいるが、まだまだ現役で立派だ。
中からは、多くの子ども達の声が聞こえた。恐らくだけど、ここは孤児院とかいう場所じゃないだろうか。
遠慮なく建物内へと入っていく男達と俺に向けられる視線は、町中よりも遠慮がない。
そりゃそうだ、ここにいるのみんな子どもだし。


「園長先生、この子が森の中で保護した子です
大変だとは思いますが、宜しくお願いします」

「あらあら、可愛らしい子ね……分かりました、この子は責任持ってお預かりします」

「ありがとうございます、それでは俺達はまだ仕事がありますので……」

「はいはい、お疲れ様です」


短いやり取りで、俺はあっさりと園長先生とやらに引き渡されてしまった。
園長先生は、これまた優しそうなお婆ちゃんで。
呆然と去って行く男達を見る俺に、優しげな笑みを向けた。


「はじめまして、私はこの孤児院の園長です
園長先生って呼んでね?」

「……」

「あなたのお名前、教えてくれるかしら?」


園長先生は、俺と視線を合わせるように床に膝をつくと俺の顔を見つめてきた。
居心地悪くて目を逸らし質問も無視するが、目の前のお婆ちゃんはにこにこと笑みを浮かべるだけだった。
結局、俺がまた小さく名前を告げる。そうすれば、園長先生はやっぱり良い名前だと褒めてくれた。


「ここにはね、あなたと同じようにパパやママがいない子が大勢いるのよ
だからね、ちっとも寂しくなんかないわ」


多分、俺を慰めようと思っての言葉なのだろうけどごめんなさい。俺、大分やさぐれてるみたいだ。
俺と同じ人間が、いったいこの世界のどこにいるって言うんだ?
俺は元々この世界の人間じゃないし、男から女になったし、今生じゃ人間にすら育てられていない。
そんな俺が、いったい、誰と同じ生き物だって言うんだ。


「これからは、私達が家族よ」


違う、俺の家族はあんた達じゃない。ミロと、わたと、ハクリだ。
お願いだから、同じだんて言わないでよ。余計に寂しくなるだろう?
頼むから、家族だなんて言わないでくれよ。余計に帰りたくなるんだ、あの森に。
でも、ミロが送り出したんだ。きっと、男の言葉を信じたから。
ミロは、俺と離れるよりも俺が死んじゃう方が嫌だと思ったから。だから、送り出したんだ。

帰りたい、帰りたい、帰りたい。
こんな俺を、最初に見つけてくれた人の元に。
こんな俺でも家族になりたいっていってくれた人の所へ。


「ああ、泣かないでシオンちゃん
寂しかったのね?もう大丈夫よ、大丈夫」


違うんだ、今が寂しいんだ。
寂しくて寂しくて、仕方ないんだ。
なあミロ、俺はいったいいつまでここにいればいいの?
もう森には帰っちゃいけないの?


「おれは、いつ、もりにかえっていいの……っ?」


誰か、この問いに肯定してくれよ。


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