7th! | ナノ


03



どこに向かって走っていたか、自分では分からないつもりだった。
だが気が付けば、俺はミロの湖まで逃げてきていた。
はあはあと切れる息がうるさい。普段ならこの程度の距離走ったところで、体力は尽きないはずなのに。

わた達を置いて、俺一人だけで逃げてきてしまった。
俺の方が年上なのに。必死で俺を守ろうとしてくれた奴らを置いてきてしまった。
あまりちゃんとは見てないが、あの男達の服は警官のものだろう。
わた達に危害は加わらないとは思うが、絶対とは言えない。
じわ、と潤んだ目元を力強く拭った。ここで声を上げて泣いたりしたら、わた達がしてくれたことが水の泡となってしまう。
そうは思っても、後から後から涙はこぼれ落ちた。小さく、しゃくり上げる。
止まれよ涙。俺一応、成人越えたんだろ。


「どうしたの、シオン!!」


ぐすぐすと湖の前で一人で泣いていれば、俺のしゃくり上げる声が聞こえたのかミロが姿を現した。
ミロは俺の姿を見ると、一瞬で人型になって俺の傍に駆け寄る。
そして、目元を擦る俺の手を押さえると、俺の顔を覗き込んだ。
潤んだ視界がミロ一色になり、安心したのか俺はまた更に涙を流した。


「何かあったの?怪我は……してないわね」


ぺたぺたと俺の体を触り、ミロは怪我がないことを確認する。
一応、俺が怪我をしてないことが分かると安心したように一度ため息をついた。
そんなミロに、俺は激しく首を横に振った。


「ミロ……わたが、わたとジグとザグが……っ」

「わた?わた達がどうしたの?シオン」

「シオン、わたたちおいて……にげた……!!」


優しいミロの声に促されてそう言えば、ミロははっとした表情をした。
そして俺を強く抱き寄せると、素早く辺りを見回している。
またぐすぐすと泣く俺の頭をミロがそっと撫でるが、ミロ自体は未だに警戒しているようだった。
そんなミロの集中を解かないように、俺も何とか涙を引っ込めた。
俺がいつまでも泣いてたらミロに状況が伝えられないじゃないか。


「ミロ、さっききてたにんげん」

「静かに、シオン」


しかし俺が喋ろうとした瞬間、ミロは俺の言葉を素早く止めた。
口元に押し当てられたミロの綺麗な指を瞬きしながら見つめる。
ミロが耳をすませているようだから俺も耳をすましてみれば、遠くの方から微かに数人の足音と話し声が聞こえた。
ミロは静かにポケモンの姿に戻ると、安心させるように俺へ頬を寄せた。


「いたぞ、こっちだ!」

「無事のようだな……あれは、ミロカロスか?」

「きた……!」


木の間から姿を現した男達は、俺達を刺激しないようになのかゆっくり近づいてきた。
俺が縋り付くようにミロの細い体へ手を伸ばせば、ミロは俺を守るように長い体を俺へ緩く巻き付けた。
優しいミロの目元が、男達を睨むようにきつくなった。
そんなミロの様子を見て、男達は一定の距離をおいて立ち止まった。
綺麗な尾で地面を叩いて威嚇するミロに、揃いの服を着た男達はまるで落ち着かせるように声をあげた。


「勝手に森の中に入ってすまない、ミロカロス!
でも俺達は決してお前達に危害を加えに来たわけじゃないんだ」

「俺達は、その子を保護しに来たんだ」

「ミィロオ……!!」


落ち着かせようとした男達の言葉は、逆にミロを神経を逆撫でするだけだった。
唸るように低く声をあげたミロは今にも技を打ちそうだ。それこそ、この間の“ハイドロポンプ”とか。
男達が腰のボールに手を伸ばしたのを見て、やばいと思った。
あいつら、自分達から危害は加えないけど、抵抗されたら多少荒っぽいこともするつもりだ。


「なんでいまさら、ほごとかしにくるんだよ!!」

「ミロ……?」


いきなり俺が声をあげたからか、ミロが困惑したように俺を見下げた。
さっきよりも近づいたミロの頭を、抱きしめるように抱える。
これでミロの技は大半は出せないはずだ。“なみのり”とかやられたら俺が死ぬけど。


「シオンのことさいしょにすてたのはそっちのくせに!なんでいまさらくるんだよ!!」

「そ、れは……」

「だが君はずっとここでは暮らしていけないんだよ、分かるだろう?」

「うるさいうるさいうるさい!!」


最初はミロを止めるためにあげた声だったはずなのに、どうやら感情が高ぶってきたらしい。
この場にわた達がいないのも、俺を不安にさせた。
あいつら大丈夫だろうか。こいつらのこと言うこと信じるなら、多分怪我はしていないだろうけど。


「おれのかぞくにてだすな……!かえれ、かえれよお……!!」

「ミロー……」


自然と俺の両目からは、また涙がこぼれ落ちていた。
慰めるように、俺の頬をミロの頭部から生えた長いヒレが撫でる。
俺のしゃくりあげる声だけが辺りに響き、男達が困惑したように顔を見合わせているのが分かった。
もう、ほうっておいてくれれば万事解決なのに。


「聞いてくれ、ミロカロス」

「……ミロ?」

「人間はな、お前達ポケモンとは違うんだ
分かるだろう?」


どうやら男達は俺よりも先にミロを説得することにしたらしい。
諭すような声色に、ミロは困惑したように眉を下げた。分かりづらいけど。


「その子もな、ずっとお前が育てることなんて出来ないんだよ
まず食べ物から違うだろう?そのままだと、いつか、その子は死んでしまう」

「ミロ!?」

「今はまだ大丈夫かもしれない、だけどその内充分な栄養が取れなくなってしまうんだ」

「その子を大事に思うなら、俺達に任せてくれないか?な?」


俺が薄々思っていたことを、こいつらはあっさり言ってくれた。
圧倒的にタンパク質が足りないんだ。だってここ、森だし。ポケモンしかいない。
まさか、仲間食べるわけにもいかないし。
ミロが迷ったように、俺を見つめているのが分かった。


「やだからなミロ!おれは、いやだからな!!」


そんな目を振り切って、俺は俺が出せる一番強い力でミロに抱きついた。
それは、半ばしがみつくに近かったけれど。
ミロはそんな俺の頭を頭から生えているヒレで撫でて、俺に顔を寄せてすり寄せて。
そして、俺をゆっくり解放した。


「み、ろ……?」

「ミーロ」


そして困惑する俺の背を、優しく頭で押して。優しく囁くように鳴いた。
まるで、いってらっしゃいとでも言うように。
俺の伸ばした手は、ミロに届かず宙を切った。
男達が俺を保護したんだ。俺の足は簡単に地面から離れていった。


「ありがとう、ミロカロス」

「この子のことは任せてくれ、ちゃんと育てるさ」

「ミロ」


催促するようにミロがその美しい尾で地面を叩いた。
それを合図に、俺はミロから遠ざかる。もう手が届かない。


「や、やだ!ミロ!!いやだつれてかないで!!ミロ!!」


声が枯れるまでミロの名前を呼んでも、届かない。
必死に伸ばした手の先で、ミロが悲しそうに笑っていたような気がした。


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