7th! | ナノ


04



「シザリガー!」

「チッ、流石だな……だからこそ高く売れるってものか」

「うる?」


ハゲの言葉が理解出来なくて首を傾げる。
そうすればあいつはにやりと笑みを浮かべた。止めろその笑み、キモい。


「そのポケモンはな、ミロカロスって言うんだよお嬢ちゃん」

「それくらいしってるよ、ハゲ」

「ハゲてねえ
ミロカロスってのはなあ、最も美しいポケモンとまで言われてるんだよ」

「みればわかるだろ、ハゲ」

「だからハゲてねえ!
そんなポケモンを金持ち共に売り飛ばすのが俺達の仕事なんだよ!
美しい上に強い!こいつは久々に高く売れるぜ!!」

「はつげんがへんたいくさい!そのうえさいていだ!!ハゲのくせに!!」

「さっきからハゲハゲうるっせえぞガキ!!」


ハゲ以外にはつっこまないんだな。そんなに気にしてるのか、後退。
俺たちが言い合っていれば、狼とカニが復活していた。ふらふらだけど。
まだやる気らしい。どうしよう、このままじゃミロも疲れちゃう。
俺を抱いたままじゃミロも動けないし。


「グラエナ、“あくのはどう”!」

「シザリガー、“バブルこうせん”!」


それ分かってて遠距離攻撃しかけて来るお前らってどんだけだよ!!
歪みねえ悪役め!2ページ前までのコミカルさをもっとくれ。
そしてやられろ。

ミロは俺を庇うようにさらに俺を抱き込むと、攻撃に背を向けた。え、ミロ嘘だろ。


「ミロ、おろして!」

『だめよ』

「え、なにくびよこにふって!ダメってこと!?
じゃあおれだっこしたままでいいからみずのなかににげて!」

『それもだめ』


お願いだから首を横に振らないでよミロ!このままじゃミロが怪我するだろが!!
じたばたと暴れてみるが、ダメだ。ミロの拘束が強くて抜けれない。
あぁああああもう幼児の体が憎い!ついでに俺の役立たず具合はもっと憎い!!

空気を裂く音がすぐそこまで近づいてきてる。
俺は思わずぎゅっと目を瞑った。


『ミロ!シオン!!』


そんな時、もの凄く聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。
と同時に衝撃と衝撃が当たるような音が静かな森に響き渡った。
そっと目を開けば、そこにはハクリがポケモンの姿でそこにいた。
……今だけナイスだハクリ!!


「ハクリ!」

『二人共、怪我はないか?』

『ええ、ないわ
来てくれてありがとう、ハクリ』


にこりと笑みを浮かべたミロに、ハクリは一瞬で赤くなった。
おいこら、そんなことしてる場合じゃねえぞ白狸。自重しろ。
ていうかタイミング良すぎじゃね?
まさか出るタイミング伺ってた訳じゃねえよな?そうだったらその自慢の毛皮剥いで売るぞ。


「あ、アブソルだあ?なんでこんな所に…」

「シオンのげぼくだから」

『げぼ!?違う、家族だ!!』


俺が下僕って言ったらハクリがわたわたと慌てだした。
何か主張してるけど知らない。俺には何言ってるかさっぱり分からないし。


「アブソルか……どうする?」

「いいさ、ついでだ
あいつも捕まえてセットで売るげぶ!?」


ハゲの方が売るって言った瞬間、奇声あげて倒れた。何だ何だ。
どうやら何かの奇襲を受けたようだ。続いてロリコンの方も奇襲を受けた。
ふ、と上を見れば力強く羽ばたいているちっこい青と白の鳥が。


「!わたー!!」

『シオンー!ミロさーん!大丈夫ですかー!?』


俺が呼べば、ばびゅんと空から俺の所まで急降下してきた。
おい止めろ、俺今まともに動けないから突っ込んでくるな。顔面衝突するだろうが。
だがわたは器用に俺の頭の上にふわりと着地すると、慰めるようにそのもこもこの羽で俺の頭を撫でた。
それを見たミロも安心したのか、俺を湖の近くの地面に下ろした。ちょっと残念。

どうやら悪人二人はわたに高速で突かれたらしい。頬にくっきりくちばしの痕が着いている。
わた……恐ろしい子!!


「クソ……今度はチルットか!?」

「いてて……あいつも捕まえるのか?」

「当たり前だ!こうなったらあのガキも捕まえて見せ物にしてやる……!!」


俺なんか見せ物になるの?あ、あれかな森の中で育った野生児!みたいな?
……そんなん初見で分かるものか?
やっぱりこいつらバカ?
俺がわたを頭に乗せてバカと変態を見ていれば、すぐ後ろからひんやりとした空気が漂ってきた。
え、何々超冷たい。誰ですか、こんな冷気を放っているのは。


『シオンを売る……?そんなこと、私がさせないわ』


我が女神でした。
何でか分からないけど、女神がぷっつんしたようです。
さっきみたいに口からビーム発射しました。ただし、今度は水なんて優しいものじゃない。
冷気を発しました。バカと変態のちょうど真ん中を通っていったビームは、直線上を見事凍らせました。

……ミロ怖!!
普段怒らないと怖い人が怒ると怖いって本当だったんだな……。
思わず頭の上のわたを抱きしめてしまった。


「れ、“れいとうビーム”……」

『私のことだったらまだ許せたわ、でも……シオンに手を出すって言うのなら容赦はしないわ
あなた達を氷漬けにしてでも、シオンは私が守る』

『……ハクリさん、おれ達もしかしていらなかったんじゃ……』

『言うな……切なくなる』


おーい、俺を会話に混ぜろ。俺がポケモンの言葉分からないの知ってるだろ。
くそう、こう言う時不便だよな言葉が分からないのって。
今、ミロがめっちゃイケメンな発言したように感じたってのに……!!


「お、おいどうする……?」

「だ、大丈夫だ!相手はたったの3匹だ、俺たちのポケモン全部使えば……」

『ふむ、ならば儂らも手を出してもよいと言う事じゃな?』


何かまたせこい事言い出したバカの声に被さるように、形容しがたいしゃがれた鳴き声が響いた。
森の中から姿を現したのはポケモンの姿をした長老様。
威厳たっぷりな長老様の後ろには、森のみんなが続くように姿を現した。マッスグ夫妻もいた。
みんなで悪党二人を囲んで、威嚇しているようだ。


『多勢に無勢が許されるのなら、儂らも遠慮なく手を出させて貰おう
儂らの仲間を、守るために』


長老様が何て言ったかは分かんないけど、それに同調するようにみんなも鳴き声をあげた。
囲まれている二人は、びくりと体を震わせる。
ミロとハクリ、わたが嬉しそうな様子から、きっと長老様は俺たちにとってとっても嬉しいことを言ってくれたんだろうなあ。
それくらいしか分からないのが寂しい。やっぱ言葉分かるようになりたい。


「お、おいどうする……!?」

「当たり前だろ!?逃げるんだよ!!」

「あ、待てよ!!」


この人数は流石に分が悪いと踏んだのか、二人組はみんなの間を振り抜けてダッシュで逃げていった。
その後を何人かが追いかけて吠え立てていた。
あ、遠くで叫び声が聞こえる。噛み付いたのかな。


「……ミロ、もうだいじょうぶ?」

『ええ、もう大丈夫よシオン』


取りあえず、湖に浸かっているミロにそう尋ねてみる。
そうすれば、ミロはいつも通りの綺麗な微笑みを向けてくれた。
ぐるっと周りを見渡す。
みんな、すごく優しい目をしてくれた。俺、あいつらと同じ人間なのに。


「……ミロ!!」

『きゃあ!?』


安心したのか何なのか、よく分からないけど、もの凄くミロに抱きつきたくなった。
本能に従って思い切りミロに飛びつく。
ミロは一度悲鳴をあげたが、すぐ受け止めてくれた。
頭を伸ばして俺に擦り寄り、頭から生えてる長いヒレみたいなので俺の頭を撫でてくれた。


「ミロ、ミロ、ミロ……!!」

『よくがんばったわね、シオン
怪我がなくてよかったわ』


死にかけたり、ミロが怪我しかけたりで、精神はともかく肉体の方は大変びっくりしたらしい。
そりゃそうだ、俺まだ3歳だもの。

優しい目をしてるみんなに甘えて。
俺はもう少しだけ、ミロにあやしてもらいながら泣きじゃくることにしたのだった。


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