今日は朝から嫌な予感がしていた。
どうして、と聞かれたらなんとなくとしか言えないけど。
朝、柔らかいベット擬き(わた作)の上で目を覚ましました。
住処からちょっと離れた湖でぱちゃぱちゃ顔を洗いました。
俺がいない間に、いつものように現れた白狸に食前の運動として喧嘩売りました。
いつまでもミロにびくびくしてるいわたに一発喝入れました。
朝ご飯を食べて、今日も出かけていったミロを見送りました。
ここまではいつも通りでした。
さて、今日もジグザグツインズがそろそろ来るだろうなって思ってたら、やってきたのは長老様だった。
「今日は住処から出てはいかん」
いつも優しい長老様らしくない、厳しい顔で言われた。
驚いたのは多分、俺だけじゃない。わたもハクリも固まってた。
長老様は一度俺達の住処を見渡して、また厳しい顔をした。
「ミロカロスはどうしたのじゃ?」
「み、ミロさんでしたら、いつものように出かけられましたよ……?」
「しまった、遅かったの……!」
どもったわたの言葉に、長老様が苦々しげに呟いた。
何かやだ、長老様怖い。
思わずハクリなんかの服の裾を握ってしまった。
何でよりによってハクリ。そこはわたにしとけよ、俺。
ハクリはそんな俺の行動にちょっと嬉しそうに笑って、俺の手を握ろうとしてきた。
いや、そこまで求めてない。だから拒否。
ハクリの手払ったらしょんぼりした。うざい。
「長老、ミロがいなければ何かまずいことでもあるのか?
それに、住処から出るな、なんて」
誤魔化すように話に加わってんなし。
そんなにショックか、俺に拒否られたことが。
ハクリの言葉に、長老様は俺を一度見て躊躇した。
え、何……?俺に関係あること?
「人間が来たのじゃ」
「にんげん……?」
それ、俺の同族やーん。
関係あった、めっちゃ関係あった、むしろ関係ありまくりだった。
てかね、長老様が人間って言った瞬間ね、わたとハクリがびしりと固まったよ。
え、何々?俺の同族来ちゃうとそんなにヤバい感じ?
どうでも良いけどにんげんといんげんって発音似てるよね、幼児の舌だと噛みそうになる。
最近インゲン食ってないけど。ポケモンワールドにインゲンあるのか知らないけど。
「にんげん、きたらだめなの?」
わたとハクリが異様に緊張してるし、長老様もずっと怖い顔してるし、ってことで素直に聞いてみた。
そしたら三人共揃って、「あ、ミスった」って顔しやがった。
……今の短時間で俺の存在忘れてたとか、何か悲しくなるから止めろよ?
「いつもなら何ともないんじゃよ」
「そ、そうだよ!来ちゃいけないことはないんだ」
「ここはキンセツからヒワマキを繋ぐ森だからな」
キンセツとヒワマキってどこよ。
ってそこじゃない。
その慌てようからしてあれだな?いつも来るようないい人間じゃない方が来たんだな?
幼児は騙せても俺は騙されねえぞ。だって俺もう二十歳越えたし。
悪い人間って、ここじゃ具体的に何するんだ?
思い出せ俺、遥か昔の記憶を!赤緑と金銀クリスタルの悪役は何をしてたか……!
悪役の名前すら思い出せないけど、まあそこはいいや。
とりあえず、具体的な悪事!
……シオンタウンのトラウマしか出てこなかった。軽く鬱だ。
「長老、俺がミロを探しに行く」
「お、おれも!おれも行きます!!」
「ならぬ、今回の相手はまずい」
「ならなおさら……!」
おう、何か言い争ってるとこ悪いけど俺行くよ?行っちゃうよ?ミロ探しに行っちゃうよ?
いい?いいよね?異論は認めない!!
だって何か嫌な予感するんだもん!俺がだもんとか言っても気持ち悪いけど。
シオンタウンのトラウマってあれじゃん!幽霊でシルクスコープでガラガラだろ!?
まずいよ、まずいって。悠長にしてたらミロ死んじゃうって。
何でそこまで思い出せて悪役の名前思い出せないんだろうね、これもあの白髪のせいか?
ふざけんな禿げろ。
っつーわけで、行ってきます。
大丈夫、夕飯までには帰ってくる。多分。
「今日来たのはポケモンハンターなんじゃ、捕まったら売られてしまうのじゃ」
「ハンター……!!」
長老の言葉にハクリがギッと眼光を鋭くした。
そんなハクリにびくりと体を震わせた綿雲は、はたと辺りを見回した。
そこにあるはずの小さい女の子の姿がない。
「シオン……!?」
綿雲が気が付いた時には既に、シオンは住処から出て行った後だった。
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