「うー……むい!」
ごろん。
で、出来たー!!寝返り打てたー!!
今日もまたミロがいなくて暇してて、じゃいっちょやってみっかって気合い入れてみた。
ら、出来た。出来ちゃったよ寝返り。
あっさり過ぎてやった本人が一番びっくりだよ。
そうか……俺大体五ヶ月くらいだったのか。新発見だわ。
あ、ちょっとそろそろ腹が苦しい。よし、もういっちょ打つか。
そう言えば初寝返りの目撃者がなしとか……!
ごろん。ごちん!
「……ふぇ」
やっべえ、ごちんて。ごちんっていった。
寝返り打ったら勢いつけすぎて後頭部地面に強打しちゃった。
痛い、めっちゃ痛い。やばい、涙腺緩む。
これはやばい。誰もいないから俺をあやしてくれる人がいない。これはやばい。際限なく泣いてしまう。
「ぅあーん!あああああん!!」
いや、17の俺だったらこれくらい何ともないのよ?そりゃしばらく悶絶くらいはするけどさ。
でも俺、今赤ん坊。本能のままに生きる赤ん坊。
しかもここ、森の中だからふかふかの布団とかないの。俺の下敷き、ちょっと柔らかいくらいの葉っぱなの。
衝撃和らげてくれないって、これいかほどに。
ああくそ!痛いー!!
「うわああぁあああああん!!」
ギャン泣きなう。
俺の脳内、めっちゃ軽いけどこれ意外にやばい。あかーん。
視界潤みまくり。
もう誰でもいいから来て俺を抱き上げて背中ぽんぽんしてー。
「あああああん!あああああああん!!」
「チル!?」
俺がわんわん泣いていれば、口に何か籠みたいなの銜えたちっこい鳥みたいなのがいた。いつの間に。
いっこうに泣きやまない俺に大慌てしているのか、忙しなく俺の上を横を飛び回っている。
あ、青い鳥だ。よく見たら翼がもこもこしてる。あ、青いアホ毛もある。
その青い鳥は口に銜えている籠をぶん投げると、ぴかって光った。何だ、お前もポケモンか。
当たり前か。
「うわああああああああああああん!!」
「ええっと、ええっと……!」
お ま え か ! !
ぴかって光った先にはこの間俺に泣かされたアホ毛少年がいた。確か名前はチルット。
チルットって種族名だったのね、何か綿毛みたいだったな。
チルットはわたわたと両手を振り回し、そして先程自分でぶん投げた籠をひっ掴んで引き寄せた。
籠の中に手を突っ込んで何か取り出すと、振った。からからと音が鳴る。
「……う?」
「あ……よかった、泣きやんだ……」
じいっとチルットの手を見上げれば、そこには何とガラガラが。
あ、ポケモンのガラガラじゃないよ?赤ちゃんのおもちゃのガラガラな。
プラスチック製じゃなくて、何か木を削って作ったみたいな、そんな感じ。
「人間の赤ちゃんはこういうので遊ぶって聞いたから……作ってみたんだよ」
天才か!お前!!
確かにいい物持ってくるって言ったけど!何でそんなん作れんの!?
ほんわり笑ってお手製のガラガラをカラカラ鳴らしてるチルット。
まだあるんだよー、と言って籠をひっくり返した。出るわ出るわ、赤ちゃんのおもちゃ。
え、これ全部あなたが作ったんですか?マジで?
手先器用とかそんなんじゃ済まねえぞ。
「うー、あう!」
「え、えと……」
俺が一生懸命両手を伸ばせば、チルットは恐る恐る俺を抱き上げてくれた。
ありがとう。後頭部下にしてると痛いんだよ。それにお手製のおもちゃにも興味あるし……!
俺の片手にガラガラを持たせると、チルットは両手でしっかりと俺を抱えた。
おお……!案外上手いじゃないか。しかもこのガラガラ、ちゃんと持ち手にヤスリかけてある。
このチルットただのヘタレじゃなかったんだな……!!
「……あ、こぶが出来てる」
「きゃーあ!あうー」
「ぶつけちゃったのかな……よしよし、痛かったね」
チルットが何かいって俺の頭よしよししてるけど、悪い。
俺今、お前が持ってきてくれたガラガラに夢中なんだ。
なにこれ、超面白い。振ればからんからん鳴る。
普通のガラガラより優しい音でめっちゃ俺好み。
上機嫌でガラガラを揺らす俺にチルットも嬉しそうだ。
しかし、そんなチルットの笑顔がびしりと固まった。
何だ、いきなり。
「シオン!大泣きしてたってどうしたの……あら?」
めちゃめちゃ慌てたミロが帰ってきた。
ミロは嬉しそうにきゃっきゃきゃっきゃ笑ってる俺を見て首を傾げ、そんな俺を抱いているチルットを見てまた首を傾げた。
「チルット?どうしたの、こんなところで…」
「ひいぃいいいい!ごめんなさいいいいいいいい!!」
「う!?」
ミロが話しかけた途端、チルットが今まで抱いていた俺を盾にするように自分の顔の前に持ってきた。
……なんだなんだ?
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