ジグとザグをマッスグマさんの所に届けたおれは、住処で小さく膝を折って待っていた。
ハクリさんが、ミロさんとシオンを連れて戻って来てくれるのを。
でも帰ってきたハクリさんはすごく沈んだ顔で、ミロさんは泣きはらした目で静かに笑った。
そこで俺は知った。シオンがもう、ここには戻ってこないことを。
事の次第をみんなに伝えに行くと、また住処を出て行った二人の背が見えなくなって。
おれは、自分の無力さを思い知った。
おれが、あそこでちゃんと人間達を追い払えていたら。
おれが、ちゃんとシオンを守ってあげられたのなら。
みんなあんなに悲しくならなくて済んだのに。
悲しくて悲しくて、それ以上に自分が許せなくて。
おれは一人で静かに泣いていた。
「わたにいー!」
「シオンがでていったってほんとー!?」
「「どうしてどうして!?」」
数日たって、ゆっくり休んだ双子が事情を聞いたのかおれの元を訪れた。
純粋に不思議なのだろう。その表情は困惑一色だった。
「おれたちがきらいになったのか!?」
「まもってあげられなかったから!?」
「「ねえわたにいー!!」」
「……違うよ」
少なくとも、ジグとザグのせいではない。二人はよく頑張ってくれた。
あれから、ミロさんもハクリさんもあまりこの住処に寄りつかなくなった。
ここはシオンとの思い出が多いから、まだここに出入りするのはつらいんだろう。
おれは、つらいけどここに残ることにした。
みんなが戻るまで、この場所を守るって決めたから。
「シオンは、ちょっと遠いところに行って、でもまた帰ってくるって、おれは信じてるよ」
泣きそうになる。けど我慢。おれはお兄ちゃんだから。
泣くのはあの日だけって決めたんだ。
だって、おれが泣いていたら一番つらいはずのミロさんが泣けなくなってしまうんだ。
ハクリさんは、いったい泣いたのかな。泣いたとしても、多分一人で見つからないように泣くんだろうなあ。
「だから、二人も待っていてあげて?シオンのこと」
まだ生まれて三年しかたっていないこの双子に本当のことを言っても分からないだろうから。
事実を濁してそう言えば、納得していないようだけど頷いてくれた。
よかった。シオンを待っていてくれる人がまだいるよ。
「あ!」
「じゃあわたにいー」
「「シオンがかえってくるまでいっしょにあそぼ!!」」
二人は二人なりに、俺が寂しくないようにと誘ってくれたらしい。
にっこりと明るい笑みを浮かべ、手を差し伸べて誘ってくれた。
でも、
「ごめんね、二人とも
おれ、これから少しやることがあるんだ」
おれは、これから少しでも強くならなくちゃいけないんだ。
今度はちゃんと、守りたいものを守るために。
***
それから数年間、おれの生活には大した変化はなかった。
朝起きて木の実を食べて、住処を綺麗にして。
偶に森の中でミロさんとハクリさんと会って近況を報告して。
おれは毎日、バトルに明け暮れた。
最初はなかなか勝てなかったけれど、森のみんなに協力してもらった。
その内どんどん強くなって、しばらくして道行くトレーナーに勝負を挑んだ。
何度か捕まりそうになったけれど、なんとか逃げて戦って。
そして今日、とうとうおれは進化した。
「やっと、やっと進化した……!!」
感動してつい捕まりそうになったけれど、そこは何とか空を飛んで逃げた。
ねえミロさん、ハクリさん、シオン。
おれ、強くなったよ。あの時よりももっと、強くなったよ。
だから、もう泣かないで。今度はおれがみんなを守るから。
だから、またおれを傍においてください。
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