「じゃあ、行ってくるわねシオン」
何だかとっても名残惜しげにそう言ったミロが、悲しそうに眉を寄せた。
あ、どうもシオンです。こないだの一件からミロが少々過保護になった気がするんだけど気のせいだよな?
俺をぎゅっと抱きしめたミロは、まだ離れがたいのか俺の頬を撫でていた。
あの、止めて照れる。俺今、体は女だけど心は男だから。多感な男子高校生だから。
精神が二十歳越えたって立つものは立つんです。俺今立つものないけど。
あ、立つ立たないが分からない子はそのままの純粋な君でいてね。いやマジで。
「いってらっしゃいミロ、きをつけてね」
「……やっぱり、私今日シオンの傍にいるわ!!」
「むぎゅ!?」
取りあえず安心させるためににっこり笑って手を振ったら、ミロに思いっきり抱きしめられた。
やめろください!女神のお胸様に包まれて窒息してしまう!!それはそれで幸せだけど!!
ミロの住んでる湖ってすっごい綺麗だから、結構住処を巡っての争いが起こるんだって。
だからミロはその湖の統率なんかを長老様から任されてるんだって。すごいよね、流石女神。
「み、ミロさん……!シオンが潰れそうです……!!」
「ああ!ごめんなさいシオン!!教えてくれてありがとう、わた」
「ひっ……ど、どどどどういたしまして!!」
わたの言葉に抵抗がなくなった俺の様子に気付いたのか、ミロがバッと俺を離した。
チッ、わため余計なことを。
ミロは俺の乱れた髪を手櫛で整えると、満足したのか一つ頷いた。
「だめだよミロ、おしごとちゃんとしなきゃ」
「シオン……」
「シオンもわたであそんでまってるから」
「で!?シオン、今でって言った!?」
お前の気のせいじゃね?ほら、幼児ってまだ『てにをは』上手く出来ないじゃん?
ちゃんとわたと、って言おうと思ったよ一応。でも俺のお口が勝手にでって言ったんだよ。
俺のお口が悪いんだよ。
「わ、分かったわ……!わたと仲良く待ってるのよ?」
「はーい」
「ま、任せてください!」
「ええ、お願いねわた」
ミロがにっこりと笑った瞬間、わたはまた引きつった声をあげて飛び上がった。
……おいおい、大丈夫かよ。これ悪い人が女の人だったらわた守ってくれないんじゃね?
いや、そこはわたはやる時はやる男だって信じて……無理かも。
少しくらい自己防衛術習っといた方がいいかもしんない。
「出かけたハクリももう少ししたら戻ると思うから…そうしたら3人でここにいてね?
今日は何だか、森の入り口の方が騒がしいらしいから」
そうらしいのだ。
何か朝起きたら、ハクリが住処の入り口に仁王立ちして耳をぴくぴく動かしていたのだ。
暫くそうした後、俺が起きたことにも気付かずに長老様の所へ行ってくると一言残して駆けて行った。
寝ぼけてた俺も、思わずびっくりした。
だってハクリ、俺が起きると必ず抱き上げて頬ずりしてくるんだもん。きもい。
そんなハクリにローキックくらわすのが俺の朝の日常風景なんだけど。
「じゃあ、行ってくるわね」
「いってらっしゃい!」
「気を付けてくださいね、ミロさん!」
「ええ!行ってきます!!」
ミロを見送り、俺はわたと大人しく住処に引きこもった。
この間のことがあってから、俺は森に異常が起きたり人間が来たりすると大人しく住処に引きこもるようにしてる。
ほら、もうみんなに迷惑かけたくないし。
ミロとわたもその方が安心してくれるから、それでいっかなって。
あ、ハクリ?ハクリは別にいいや。うん。
「シオン何して遊ぶ?お手玉する?」
「わた、ジャグリングすんの?」
「あれ?おれがするの?」
例によって、わたお手製のおもちゃを眺める。
まあ、よくもここまで作り込んだよな。細部まで完璧です。
ご覧ください、巧みの遊び心が伺えますってか?それいったいどこのビフォーアフター?
「そういえばわたって、まだミロにびくびくしてんの?」
「えっ!?い、いきなり!?」
お手玉三つくらい持ってぽんぽんやってるわたにそう聞けば、びっくりしてお手玉全部落とした。
あ、一個頭の上に乗ってら。だせえ。
「さっきもすごいどもってた」
「う、うん……やっぱりね、まだ怖いよね」
「ふーん……まあシオンにとってはそのほうがつごういいか」
「え!?シオンそれどういう意味!?」
俯いたわたを見て思う。
うん、こいつがもしもプレイボーイとかだったりしたら大変だ。主に俺が。
ハクリみたいなのは一人で充分だな。
プレイボーイなわたなんて、ただの腹立つイケメンだ。イケメンとか言いたくないけど。
「シオンー!!」
「うるさい!」
さっきの答えで納得出来なかったわたが俺をがくがく振ってきたから、取りあえず一喝して頭の上のアホ毛引っ張っておいた。
おい、泣くなよ。三歳児に負けるなよ、十三歳。
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