***
今気が付いたけど、ミロが住処にしてた湖って森のかなり奥にあったんだね。
木の根っこをぴょんぴょん飛び越えて森を抜ければ、ミロの湖に着いた。いや、ここがミロの湖かは知らないけど。
当然だけど、ミロはいない。多分水の底にいるんだと思うけど。
澄んだ水の中を見てみてもよく分からなかった。
「ミロー、いる?」
しーん。
返ってきたのは静寂でした。
え、無視?ミロさん無視ですか?うそん、俺ミロのこと怒らせるようなことしました?
……あ、したわ。したした、めっちゃした。
でもここまで怒る?無視する程怒る?あの女神みたいなってかむしろ女神なミロが無視する程?
「ミロー?」
「……」
「ミロいないのー?」
「……」
「ミーロー!?」
「……」
これだけ呼んでも出てこないとか。
もしかしてここにはいないのか?いや、でも長老様が嘘吐くはずないしな。
マジか、俺とうとうミロに嫌われた?やだ、そんなの生きていけない。
ハクリに嫌われたところでどうとも思わないけど、ミロに嫌われるのは嫌だ。
「……でてきてくれなきゃ、シオンなくよ」
「ミロー!!」
出てきた。俺が半分冗談で泣くよっつったら出てきた。
女神があっさり湖から出てきてくれやがりましたよ。
え、マジ?ミロさんったら、案外単純なの?ちょろすぎません?
呆然とミロを見てる俺に、ミロはすりすりとその美しい顔を擦りつけていた。
まるで泣かないで、とでも言うように。
……いや、俺泣いてないし。
「……ミロ、なんでシオンをむししたの?」
「み、ミロー……」
「……シオン、ことばわかんない」
俺の質問にすっげえ悲しそうにミロが鳴いた。
……やめて!!俺をそんな目で見ないで!!思わずいいよ!って許しちゃいそうになるから!!
今回はちゃんと理由聞かなきゃ許してあげないって決めてるんだから!!
いくら美女でも俺は許さないんだからな!!び、美女でも……!
「ごめんなさい、シオン……逃げたりして、ごめんなさい」
「ミロ……」
うわおおおおおおおおおおお!!
つん、とそっぽを向いていたらミロが人型になって俺を抱きしめた。
そう、抱きしめた!!思わず雄叫びあげても仕方ないよな!!
やべえ、ミロさん超やわわかい。しかもめっちゃ良い匂い。
……え、ミロってば逃げてたの?俺から。全然知らなかった。
「私ね、前はトレーナーのポケモンだったの
ヒンバスの時なんだけどね」
「ひんばす……?」
「世界一みすぼらしいって言われてるポケモンよ」
俺がヒンバス知らないから首傾げたら、ミロが丁寧に教えてくれた。
え、みすぼらしい?みずぼらしいって弱そうとか粗末とか、そんな感じだよな?
嘘だあぁあああああああ!!進化してこんな劇的ビフォーアフターするか普通!?
今のミロなんかポケモンの時も人型の時も、The絶世の美女!!って感じじゃねーか。誰だ、ミロのことみすぼらしいとか言ったの。
「そんな外見におまけにすっごく弱くてね?だから私、トレーナーに捨てられてしまったの」
「ミロ……」
「そんな顔しないでシオン
捨てられ弱った私を拾ってくれたのが、長老様と森のみんななの」
おい嘘だろ、あんなに強くて綺麗なミロを捨てたとか。誰だ出てこい、俺がぶん殴ってやる。
もし男だったら息子潰す。もしくは髪毟る。
俺がぶすくれた顔してたからか、ミロは優しい笑みを浮かべて俺の頬を撫でた。
止めろ、惚れてまうやろ!!もうとっくの昔に惚れてるけど!!
「だからね、私……最初にシオンを見つけたときに、本当はこのまま放っておこうかと思ってしまったの」
「……え」
驚愕の事実。
いつもよく回る俺の口が制止しましたよ、奥さん。や、奥さん誰よ。
うそん、俺もしかして見捨てられるところだったの?え、え、え。
どうしよう、これ案外ショックだ。
「酷い話でしょう?」
「……」
「でも、その後すぐに思ったの
この子は今、私しか頼る人がいないんじゃないかって
そう思ったら、どうしても見捨てることなんて出来なかったの……
私だって、見捨てられたところをみんなに拾って貰ったんだから、今度は私が誰かを助けたいってそう思ったの」
ぎゅっと抱きしめるミロの両腕が微かに震えていた。
顔は泣いてないけど、声は泣いているみたいに震えていた。
「でも、そんな気持ちであなたのことを拾ってしまったから……
私、どうしてもシオンに近づくのが怖くて……!いつか知られたらどうしようって!!」
「み、ろ……」
「大好き、大好きよシオン…!
だからお願い、嫌いにならないで…私を捨てないで……!!」
ぎゅうぎゅうと俺のちっさな体を抱きしめて、ミロはわんわん泣いていた。
俺がミロのこと嫌いになるわけなんてないのに。
むしろ俺は毎日全身でミロに愛を表現してたつもりだったんだけど。
ミロは一回捨てられちゃったことでなかなか信じられなくなってたんだなあ……。
ごめんね、気が付かなくて。
「ミロ、おれもミロがだいすきだよ」
「シオン……!!」
「だからミロも、おれのこときらいにならないで?」
「……ええ、もちろんよシオン……!!」
素直に、正直にそう伝えれば、ミロは涙を流しながらもふわりと綺麗な笑みを浮かべた。
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