嘲笑 | ナノ

(愚行を笑い眺める)


百鬼よりも不気味なその雰囲気に、ワタシハ。

腕を軽く上下に振るだけで、有機物も無機物も全てはワタシの思う通りに動ク。
動くのは目に見えるものだけではなくて、その心も記憶も自由自在。
同族よりもよっぽど強いこの力に気が付いたのはいつでしたかネ。
自由気ままに、それこそ王にでもなったかのように振る舞い続けることに飽きたワタシが次に試したことは所謂犯罪というものでシタ。
ワタシの力さえあれば完全犯罪なんてお手の物。
ワタシは色々なことをしてきまシタ。


「チッ……どこに逃げやがった」


今日までハ。
何、簡単なことデス。
ワタシがいつも以上に適当に悪さを行い、それに対応した警察官がいつも以上に頭が切れる男だったのデス。
要するに運が悪かった、それだけのことでシタ。
念力を使う両腕を焼かれ、肉を食いちぎられ、ワタシは動かない腕を忌々しげに睨み付けまシタ。
これさえ動けばさっさと逃げられるのニ。
警察官にしては容赦のなさ過ぎる男デスネ。訴えマスヨ。
ぽたり、なんて生ぬるイ。
ぼたぼたとこぼれ落ちる血痕に気づかれるのも時間の問題デスネ。


「出てこい、そこにいるのは分かってるんだ」


警官のポケモンの鼻と、ワタシが残した血痕でとうとう居場所がバレマシタ。
壁一枚挟んだ遠くで警官の低い声が響いてイル。
短気なのか、数秒反応を示さなかったワタシに大きな舌打ちをこぼシタ。
この人、どうして警官になれたんでショウネ。こんなに素行悪くテ。
きっとこのまま姿を現せば死……よくて牢行きでショウカ。
それは少々、いえかなり腹が立ちマス。
どうしてワタシがこんな、ワタシよりも劣る種に屈しなければいけないのでショウカ。
イライラと歯ぎしりをすれば、ワタシの横をふらりと白い影が通っタ。


『死なせはしないわ、だって彼があなたを欲しがっているんですもの』


口元に手を当て、優雅に笑みを浮かべたそのユキメノコは、言葉とは裏腹にワタシを今にも殺しそうな目で睨み付けてきマシタ。
むしろワタシはアナタに殺されそうデス。
挑発するように警官とそのポケモンの前に躍り出たカノジョは翻弄するように技を仕掛けタ。
それでも警官の方が強いのか、カノジョは腕から足から腹から血を流し、同じ数だけ火傷を負っタ。
ボロボロなカノジョはそれでも倒れなイ。
強い意志にギラギラとその目を輝かせて、挑発するように笑みを浮かべマシタ。


「きみが最近巷を騒がせてるオーベム?ふうん……」


背後の闇から溶けて出るように、突然カレはそこに現れタ。
いえ、きっと本当はずっとそこにいたのでショウ。
気が動転していたワタシには気が付かなかっただけで、きっとカレとカノジョはずっとここにイタ。
ワタシが動けなくなって、どうしようもなくなる、その時マデ。
値踏みするような視線を睨み返せば、カレは楽しそうに愉快そうに笑みを浮かべタ。
本来はウィスタリア色であろう瞳は、夜の陰りで濁って見えタ。


「きみ、おれといっしょに来ない?きみの力、おれがもっと上手く使ってあげるよ」


歌うようにそう告げたカレに怒りが沸かなかったと言えば嘘になるでショウ。
しかし、それと同時にカレの背負う薄気味悪い気配を心地よく感じたのもホントウ。
うっそりと不気味な、人に寄れば魅惑的な笑みを浮かべたカレはそっとワタシに手を差し伸べマシタ。


「一人は寂しいでしょう?おいでよ、百鬼」


ナキリ。
きっと字面は百の鬼。
そうワタシを名付けた男は、自分のポケモンを囮に使うほどに目的に貪欲なこの男は、血だらけで地に伏せるユキメノコを、ボロボロな惨めなワタシを笑っタ。

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