嘲笑 | ナノ

嘲笑する白い悪魔


これはまだ、彼の瞳が黒かったときのこと。

不意に浮上した意識に、彼は困惑したように息を詰めた。
そっと自身の、長くも短くもない睫毛を震わせる。
未だ、ぼんやりとする意識で辺りを緩く見渡した、その瞳の色は遠目からでは黒色に見えた。
近くで見れば、焦げ茶色だろうか。
メラニン色素の強い、濃褐色の瞳だった。


「やあ、おはよう」


宙を漂うような意識を裂くように、澄んだ声が彼の耳を刺激した。
誘われるようにそちらを振り向く。
振り向いた先には、豪華な白い椅子に腰掛けた人物が一人、密やかに笑みを浮かべていた。
男、だろうか。
男にしては線が細く、女にしては背が高いその人物は、椅子と同じように髪も肌も身につけているものさえも白かった。
透けるように白いその艶のある髪の間から覗く赤い双眸だけが、彼の持つ唯一の色と言ってもいい程だ。


「漸く目を開けたね?きみのこと、ずっと待っていたんだよ」

「お、れを……?何で」

「わたしの遊びに付き合ってもらおうと思ってさあ」


肘掛けに肘をつき、頬杖をつき、眦を下げた優しい表情で。
その何もかも白い男は、赤い瞳をゆるりと細めた。
瞬間、彼の背筋を冷たいものが走り抜ける。


「きみのような子をそのまま、何も与えずそのままこの世界に解き放ったらいったいどうなるのか
わたしはきみの終わりにとても興味がある」


白い男の言葉に、彼はただただ困惑し、そして恐怖した。
これから彼に何が起こるのかは理解が出来ないし、追いつかない。
けれども端々から聞こえる不穏な単語に、垂れ目気味の瞳を大きく見開いて、彼は男からじりじりと距離を取った。


「……何なんだよお前!ここはどこなんだよ!俺をいったいどうする気なんだ!!」


怯えの色が大きく出ている濃褐色の瞳に、じわじわと藤色が混じり始めた。
震えながらも男を睨み付けている彼は気が付いていない。
濃褐色を飲み込む藤色に、男は口元の笑みを隠すように手を当てた。


「わたしはアルセウス、創造神アルセウス
この世界の生き物は皆、わたしのことをそう呼ぶよ」


そう名乗った目の前の男は、怯える彼を嘲笑うように唇を釣り上げた。

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