嘲笑 | ナノ

嘲り、笑う


唸るようなサイレンを嘲笑うようにして、そいつは今日も現れた。

にやにやと貼り付けられた笑みが胡散臭い野郎。
今日の髪色はプラチナブロンドらしい。
煌々と照る月明かりに反射する痛みきった髪が風に揺らいでいた。
さらさらと嘘を紡ぐ、むかつくが形のいい唇がにんまりとした形のまま言葉を発する。


「こんな素敵な月夜にパトカー乗り回すなんて風情がないね?」


小首を傾げて、惚けてそんなことを言う目の前の奴を殺してやりたいと思ったのはもう何度目か。
そろそろ実行に移したいがそう言う訳にもいかない。
俺の立場がそれを許さない。
こういうときだけは不便で仕方がねえ。


「誰のために周辺住民に文句言われるかもしれねえ音量でサイレン鳴らしまくってると思ってんだよ、てめえのためだ」

「ええー?おれ?どうして?なーんにもしてないのにい」


元々丈夫ではない堪忍袋の緒がぷっつんと千切れる音がした。
片手を口元へ持っていき、息を吹く。
高い指笛の音と共に俺の犬が奴を攻撃した。


「うわっとー!あっぶないなー」


容赦なく放たれた“かえんほうしゃ”を一歩も動かずにかわした奴の台詞ではないだろう。
奴の背中を見れば、いつもの腹の立つオーベムがいた。
あのオーベムの、恐らく“サイコキネシス”に弾かれたか。
思わず舌打ちが出たが、今ここにいるのは奴と俺の犬だけ。
使えない同僚達はこいつを追いつめる以前に、こいつの顔すら知らない。
何も気にすることはない。


「いきなり、しかも人間に向けて攻撃するなんてだめじゃん?いいのー?きみがそんなことして」

「白々しいんだよてめえ……今度は何を企んでやがる」


にこにこと、その好青年面した顔を笑みにして。
いったい何人この悪魔に騙されたことか。
俺にとってみれば騙される馬鹿の方が救いようがないと思うが、こいつのせいで俺の勤務時間が増えるのは戴けない。
俺の足下に伏して、“まて”をする犬にいつでも迎撃できるように合図をする。
俺に従順なこの犬は自身の耳を一度だけ動かして、また顔を伏せた。

路地裏に追い込まれた袋のネズミは、今までのさわやかな笑みを引っ込め、にたりとした笑みを浮かべた。
そうだ、これが奴の本当の姿だ。


「取引しようよ」

「ああ?」


またこいつは、訳の分からないことを。
ころりと万人受けしそうな笑みを浮かべた奴は、シンは、俺に片手を差し出して言った。

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