嘲笑 | ナノ

笑みを、止める


いつもあるものがなくなるだけで、こんなに背筋が凍るなんて思わなかった。

ポケモンリーグに突如現れたNの城に、彼は楽しそうに歓声をあげた。
本当に関心してあげた声ではないことは、彼に騙されていない人間ならすぐに分かる。
生憎ヒメは完全に騙されているが、俺やナキはきっと分かってる。
そう言えばあの警官にボロボロにされたヒメを回収するのは大変だったとナキが言っていた。
あの子どものトレーナーがヒメをポケモンセンターに連れて行くとか言っていたらしい。
ナキのテレポートはこういうとき重宝する。
ぐったりとしたヒメを抱えたナキの姿を、もう何度見ただろう。
最近感覚が麻痺してきたように思う。
ボロボロのヒメを治療するのも慣れてきた。


「サヨ、見てごらん」


彼の足下に伏せをしていた俺に、彼の声がかかった。
素直に顔を起こして彼の指さした方へ顔を向ける。
そこにはいつか見た子どもがダークトリニティに連れられてNの待つ部屋まで向かう途中だった。
今出てきた部屋は、確かNの部屋だったような気がする。
子どもの顔色は悪く、表情は何かを決意したように引き締められていた。


「どうなるかな?これから……きみはどう思う?」


どう思うと聞かれても、俺には答える術なんてない。
仕方なく一度ぱたりとしっぽを振れば、彼は楽しそうに俺の頭を撫でた。
くすくすと笑みを浮かべる彼は、ゆったりと足を踏み出す。
俺はその後をただ、着いていく。
遠くで喧しいポケモンの咆吼と、激しいバトルの音が響いていた。

するりと溶け込むように、激しいバトルを繰り広げるNと子どものいる部屋へ入り込む。
柱と柱の間で彼らからはちょうど見えない死角に落ち着けると、彼は楽しげにバトルを観覧していた。
互いに最後のポケモンなんだろうか。
ダイケンキとゾロアークが激しく争い合っていた。
目まぐるしく変わるバトル展開を、思ったよりも冷めた目で見つめる。
一度あくびをつくと、どうやらバトルは終わっていたようだった。
勝者はあの子ども。我らが王様が負けたらしい。
彼はなおいっそう楽しげに唇を釣り上げた。


「それでもワタクシと同じハルモニアの名前を持つ人間なのか?
不甲斐ない息子め」


Nがなにやら早口が語っていれば、それを遮るようにゲーチスがその場に乱入してきた。
驚いた。あの二人親子だったのか。
ぐちぐちとNを罵る言葉に、Nではなく子どもの方が不愉快そうに表情を歪めた。
なんで?
お前にとってNは敵じゃないの?
何度か首傾げている俺に、彼はそっと俺の頭に手を置いた。
俺を落ち着けさせるような行動だったが、実際は彼の方が興奮していた。
これからいったい、どんな楽しいことが起こるのか。
ゲーチスの目的をこのときまで聞かずに楽しみに取っておいた彼の、最大の楽しみがここで来るのだ。
無邪気に瞳を緩めた彼だが、その表情がどれだけこの場にあっていないか分かるだろうか。


「もともとワタクシがNに理想を追い求めさせゼクロムを現代に蘇らせたのは“ワタクシ”のプラズマ団に権威をつけるため!恐れた皆を操るため!!
ワタクシの目的、世界を完全に支配するため!邪魔ものは取り除いてしまいましょう……」


そう言うとゲーチスは今さっき死闘と呼べるようなバトルをしていた子どもに襲いかかった。
自身のサザンドラを出して、技を繰り出して。
少し離れた場所では修羅場が再開されたが、俺にはそっちよりも自分の傍がこわかった。
見上げた彼の、シンの表情が、こわかった。


「……残念だよゲーチス」


そうぽつりと呟いた彼は、全くの無表情で高笑いを上げるゲーチスを見下していた。
楽しみにしていた分、期待を裏切られた気持ちになったのか。
いや、彼は何者にも期待はしていないはず。
ああ、じゃあ、ただ単に飽きたのか。


「きみの理想がそんな低いものだなんて、ね」


口元に手を当てた彼は、次に手を離した時にはあの空々しい笑みを浮かべていた。

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