嘲笑 | ナノ

笑みで、殺す


彼はいつだってトモダチのことを思っていた。

ライモンシティの遊園地でも、電気石の洞穴でも、そしてここ、フキヨセシティでも。
トウヤとトウヤに縛られているトモダチ達はいつ会っても互いに信頼して笑みを浮かべて、とてもシアワセそうで。
ボクが今まで出会ったことトモダチの中で、一番輝いて見えた。
それはトウヤ達だけではなくて、例えば街の中で、例えば旅の道の途中で。
出会うトレーナーと共にいるポケモン達もそれは同じことで。
生まれたときからトモダチと育ったボクは初めて見る、有り得てはいけない光景にボクは心底困惑した。


「ああいたいた、N」


さっきトモダチを引き連れてフキヨセジムへと入っていったトウヤの背中を見ていたボクに、彼の声がかかった。
そうだ、彼とはここで待ち合わせをしていたんだ。
痛んだ髪を風に遊ばせて、彼は濃褐色の瞳を柔らかく細めた。


「いやあ、探したよ?フキヨセシティのどこにいるかまでは教えてくれないからさ
この子に探してもらっちゃったよ」


そう言って、彼は彼の足下に寄り添うヘルガーの頭をゆるりと撫でた。
ヘルガーは嬉しそうにその手に擦り寄ると先の鋭い尾を何度も左右に振った。
そのヘルガーの首もとには、大きく引き裂かれたような傷跡が生々しく残っている。
初めて見たトモダチに、ボクはまた悲しい気持ちになった。


「ゲーチスがね、きみを連れてセッカシティにあるリュウラセンの塔に行けって言ってたよ」

「……ねえ、シン」

「そこにこれからきみがトモダチになるゼクロムが眠ってるんだって、行こうかN」


ボクが彼のヘルガーを気にしていることが分かっているだろうに、彼はにっこりと笑みを浮かべて手を差し出した。
まるで全く気が付いていないとでもいうように。
いつもだったら迷いなくその手を取るのだけれど。
ボクは彼に聞きたいことがあったから、今日はその手を取らなかった。
いつもとは違うボクの様子と行動に、彼は驚いたように目を瞬かせた。


「シン、ボクは今まで旅をしてきて多くのトレーナーやポケモンを見てきたよ
ボクが見てきた人たちは、トウヤみたいにポケモンと向き合ってるトレーナーばかりだったんだ
ボクがこれからしようとしてることは、もしかして、」

「N」


ボクがその先を、今までボクが感じてきたことを言おうとすれば、シンは静かにボクの名前を呼んだ。
いつも浮かべている暖かな笑みは形を潜め、濃褐色の垂れ目がじっとこちらを見ていた。
ボクと目が合うとすぐに笑みを浮かべたけれど、それはいつもよりも苦さを帯びていた。


「実はね、おれのヘルガー……サヨって言うんだけど
サヨは人間に暴力を振るわれて、声が出せなくなってしまったんだ
おれと会ったときはもう、声が出なくてね……」


そう言い、彼はヘルガーの喉を優しく撫でた。
労るような彼の視線に、彼を慰めるようにヘルガーは全身で思いを伝えている。
声の出せないトモダチの声はボクには分からないけれど、二人の様子を見れば分かる。
二人にはトウヤ達と同じように、確かな絆があると。


「おれはサヨにこんなとこをした人を許すことが出来ない
……もし、今もサヨみたいなめにあっているポケモンがいたら……おれは」


最後まで告げはしなかったけれど、彼の言いたいことは痛い程分かった。
ふるりと震えた睫毛の下の、濃褐色の瞳を確かめることをせず、ボクはフキヨセシティのジムの前へ足を進める。
何を迷う必要があるのか。
トモダチを救うためにはこれしかないと、ボクは知っていただろう?


「……なんてねー」


だから、彼がそう唇を釣り上げたことを、ボクは知らない。

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