嘲笑 | ナノ

笑い、罵る


取引の内容を覚えているか?

プラズマ団と名乗る集団がリュウラセンの塔を破壊して塔の内部を荒らしていると連絡を受けた俺は、随分と遅い対応に本部の連中を鼻で笑った。
そろそろここに襲撃をかけるだろうと俺が塔を張ってもう半日は過ぎている。
相変わらず頭の回転の遅い、仮にも俺の上司連中にはまったく別の意味で尊敬の念を抱くばかりだ。
賊が塔を荒らして数時間、その間に子ども二人とジムリーダー一人を見送ったが足止めくらいはしてるんだろうな。
もう少し待って、偶然近くにいて早めに急行したが間に合わなかったふりをするべきか悩む。
しかし、そんな俺をせっつくように俺の犬の姿をした……ヘルガーがその鼻面で俺の膝裏を押した。
目を細めて唇を釣り上げたヘルガーに、舌打ちがこぼれる。
取引は取引ってことか。

塔の崩れた入り口の前で心配そうに様子を窺っていたアララギ博士ととろそうなガキに適当に身分を名乗り、ここを離れるように告げる。
ここにいられて面倒言われてもうざい。
ヘルガーの鼻を使う必要もなく犯罪者達の行き先はすぐに分かった。
先に入っていた三人にやられたのか、下っ端達が奥へ奥へと道しるべのように立っていたから。
ヘルガーを足下に置いている俺に文字通り手も足も出せないのか、悔しげにこちらを睨み付ける敗者共の目に自然と唇がつり上がるのが分かった。


「待て、N!」


最上階への階段を登っていれば、声変わりもしていない高い声が聞こえた。
俺より先にこの塔を登り、敵を倒してくれたガキの一人か。
どうやら現在この階段の上は絶賛修羅場中らしい。
いくつか問答を繰り返している上の連中に苛立ちが沸く。
ああ、面倒くさい。お前らが言い争っているのを横で楽しそうに聞いてる性悪に気が付かねえのか。
くすりと一つわざとらしい笑い声をあげた奴は、こつこつと革靴の音を立てた。
普段は一切立てねえくせにこんなときばかりあげる奴にまた苛立つ。


「N、ここはおれに任せて先に行きなよ……きみにはまだやらなくちゃいけないことがある」

「シン……ありがとう」


無駄にでかい咆吼と羽ばたきの音に、上を見上げれば黒いポケモンに乗った黄緑の髪の男が見えた。
なるほど、あれがNで伝説のポケモンのゼクロムか。
正直興味は毛ほどもないので早々に目を逸らす。
呆然と何もない空を見上げてるガキ二人とジムリーダーに呆れしか浮かばない。
目の前の狂人から一瞬でも目を離すなんて、まるで自殺者の群れのように思える。
漸く逃げていった奴らの姿が見えなくなって、ガキ二人が戸惑ったように声をあげた。


「シンさん……どうして、ここに……」


なるほど、こいつらもあいつに騙された奴らって訳か。
震える声で奴の名前を呼んだガキ二人に、シンはいっそ慈愛に満ちたような笑みを浮かべる。
軽く首を傾げて、出来の悪い生徒に教えるように優しく声をあげた。


「何でって……おれがプラズマ団の協力者、だからかなあ?」


息を止めた雰囲気の中、ボールの開閉音が静かに響いた。
別に放っておいてもいいが、このまま黙って逃がすだけは俺の気分が収まらない。
残りの階段を登っていけば、奴は俺へと笑みを浮かべた。
やっぱり最初から気づかれていた。


「ヒメちゃん、“ふぶき”」

「え……」

「ヘルガー、“れんごく”」


まさか生身の人間に大技を仕掛けてくるとは思わなかったのか。
ジムリーダーでさえ、一瞬動きを止めた。
……まったく、どいつもこいつも使えない。
仕方なくヘルガーに指示を出せば、そいつは一度遠吠えをして炎を放った。
おい、俺は犬にそんな躾はしてねえぞ。
ヘルガーの行動に一度目を見開いた奴だったが、すぐに楽しげに笑みを浮かべた。
吹雪を炎で急激に蒸発させたために、辺りには水蒸気が舞い上がる。
何度、こいつとこの光景を繰り返しただろうか。


「やあ、久しぶり?」

「死ね」


気軽にひらひらと手を振る奴に、いつも通り悪態を返す。
酷いなー、とふざけた返答をする奴を睨み付け、突然の俺の登場に困惑する能なし共を黙殺する。
今話しかけんな。俺はこいつの対処で手一杯だ。
奴のボールを勝手に開けて出てきたオーベムに舌打ちがこぼれる。
また逃げる気か、こいつは。


「そうそう、彼は警察官だから何かあったら頼るといいよ?」

「ふざけんな、また逃げる気か」

「もちろん、きみの相手は大変だもの……ヒメちゃん、あとよろしくね」


分かり切っている事実を音にすることがこんなにも億劫だとは思わなかった。
いつも通りユキメノコに極上の笑みを浮かべ、奴は片腕にオーベムを乗せた。
奴の笑みに、嬉しそうに頷いたユキメノコを残し、奴は“テレポート”で逃げていった。
ユキメノコ一匹置いて逃げていった奴に、背後で奴を罵る声が響く。
あああああうるせえ。
お前らみたいに仲良しごっこしてるだけがポケモンとのつき合い方じゃねえんだよ。


「ヘルガー」


目の前で構えるユキメノコに、ヘルガーを向かわせる。
そいつは楽しげな笑みを浮かべ、脆弱な獲物を嬲り尽くした。

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