海月の腹底 | ナノ

ガラクタが紡ぐあしおと

あのこがぼくを否定した。今までそんなことなかったのに。くるくるとのどを鳴らして、あのこはぼくを睨みつけている。ぼくの足元には、お父さんがくれたみずのいしが乱暴に転がっていた。

せっかく、あのこを思ってお父さんに頼んだのに。お父さんがせっかく見つけてくれたのに。かっと目の前が真っ赤になった。可愛くて愛おしいはずのあのこが憎らしい。思わず、手が出たのかもしれない。あのこは目を丸くしてぼくを見上げていた。


「お前が悪いんだ!お前が!」


かんしゃくを起こしたように怒鳴るぼくに、あのこは怯えたように震えている。見かねたお父さんが、ぼくの肩を叩いた。素直にお父さんを振り返れば、お父さんは悲しそうに眉を下げていた。

どうしてそんな顔をするの。お父さんは悪くないのに。

あのこに謝りなさい、と言うお父さんにむっとする。どうして、あのこが悪いのに。あのこの方を向けば、あのこは怯えるようにぼくを見ていた。そんな姿すら頭に来て、つい、ぼくは足元に転がっていたものを投げつけてしまった。

ぼくの足元に転がっていたものは、あのことの喧嘩の原因になったあの石で。あのこは突然のことに目を真ん丸にして、動けないでいた。瞬間、部屋の中がぴかっと光った。小さいからだがぐっと伸びで、ふさふさとした体毛が潤いを帯びてつるりと輝く。進化した。進化させてしまった。大事なあのこをこんな形で。

ぼくたちはお互い呆然と見つめあっていた。あのこの大きな瞳に写るぼく自身と目が合って、思った以上に顔色が悪いことに気がつく。ぼくも、そしてあのこも。そのことに気がつくと同時に、あのこはぼくから逃げるように家を飛び出してしまった。


「まって!!」


これが、ぼくがあのこの気持ちに気づいてあげられなかったおはなし。

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