Lip! | ナノ

05


ああ、今日もあの夢を見ている。
柔い風がわたしの中途半端な長さの黒髪を浚う。青い匂いを放つ草をさくさくと踏みしめる音がする。まぶたの裏を彩る赤い光。白い指に絡められるように握られたてのひらは少しだけ冷たかった。


「そう、そのまま」


耳へするりと忍び込んできた綺麗な声。鼓膜を震わせ、ゆっくりと脳に染み込んでいくようだった。てのひらを握り込んでいた彼の冷たい指がゆっくりと這う。

指、てのひら、手首、肘、肩、首筋。まるで確かめるように登っていく指先は、最後にわたしの頬を伝って目尻に触れた。彼の指がまぶた越しにわたしの眼球をなぞる。促されるように、そっと目を開いた。少しだけ、まぶたが震えた気がする。


「こっちへおいで、ミコ」


視界はなんだか、ぼんやりと霞がかっているような。ぼうっと目元を撫でる彼の腕を見ていれば、高い位置にある彼の頭がゆっくりと降りてきた。相変わらず深い深い混沌のような紫の瞳に、ぶるりと体が震えた。身震いと、言うのだったか。


「ああ、まだ起きていないかな」


くすりと、おかしそうに小さく笑い声をこぼした彼。おかしいな、これは夢のはずなのに。起きていないのは当然なのに。


「大丈夫、何も怖くないよ」


目元をなぞっていた指先がするりと頬を滑り、わたしの黒髪の中へ潜り込む。探り当てた耳を撫で、綺麗な綺麗な、作り物めいた顔が耳元で囁く。吐息が揺れる。頭に響く。


「おいで、ミコ」


甘く囁かれて、ゆるりとわたしの首が縦に振られた。

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