花曇りの空 | ナノ

11


「ようこそチャレンジャー、俺がキキョウジム・ジムリーダーのハヤトだ!」


不適な笑みを浮かべた青い髪の男性は、入り口から姿を現したミナトに口の端を釣り上げた。
好戦的なその笑みは、ジムリーダーとしての自信で満ち溢れている。
生まれて初めて味わうジム独特の緊張感に飲まれそうになる。
ミナトは両の手のひらに爪をたてることで、それを誤魔化した。


「ボクは、ワカバタウンからきました。ミナトです
ボクとバトルしてくれますか」

「もちろんだ。ポケモンは……」


ミナトの問いに快活に笑って返したハヤトは、次いでミナトの腰のベルトに目を止めた。
そこにはぴかりと光る、真新しいボールが二つ、静かに闘志を燃やしていた。
余計な誤解を与えぬよう、世羅のボールはあらかじめベルトから外してきた。


「二体だな?」

「はい」


確認するように問うたハヤトの言葉に、ミナトは頷いて肯定を示す。
ミナトへの確認を終えたハヤトは次に、ミナトの背後に立っていた世羅へ目を移した。
トレーナーか見学者か、迷っているのだろう。


「応援、してる」

「……うん」


ポツリと交わされた二人の会話に、世羅がこのバトルの見学者であることを悟ったのだろう。
ハヤトはジムトレーナーを一人呼び寄せると、観覧席までの案内をそのトレーナーへ託した。
そしてハヤト自身はミナトを引き連れ、ジムの奥へと足を進める。
ジムの奥には、綺麗に整備されたバトルフィールドが広がっていた。
見学席は二階。
ちょうどフォールドを見渡せるような造りになっていた。


「それではこれより、ジムリーダー・ハヤト対チャレンジャー・ミナトによるジム戦を行います!」


審判役のジムトレーナーが高らかに声を上げる。
ぴん、と空気が張りつめていくのが肌で感じられた。
審判は片手に一つずつ旗を持っていた。
ハヤトの方を向いている手には赤い旗を、ミナトの方を向いている手には緑色の旗をそれぞれ握っている。


「使用ポケモンは二体、ポケモンの入れ替えはチャレンジャーのみ認められます」


審判の言葉に、ハヤトはボールを一つ取り出すと、軽く宙へ放り投げる。
ボールから元気よく飛び出たポケモンは、ことりポケモンのポッポだ。
ばさりと翼を力強く羽ばたかせ、好戦的にこちらを見つめている。


「俺の始めのポケモンはこいつだ!」

「ポッポか……ロコン、行って」

『了解』


対してミナトがフィールド上に出したのは、昨日バトルをしたあのロコンだった。
マダツボミの塔の前でゲットしたロコンは、六つの尾をゆらりと揺らすとポッポを見上げる。
二匹がフィールドに姿を現したことで、審判は両手の旗を振り上げた。


「ポッポ対ロコン、始め!」


審判による試合開始の合図が響いた。
その声と同時に飛び出したポッポに、ミナトは一度怯む。
獲物を狙う猛禽類の様な瞳が鋭い。
急速に高まる鼓動を、ミナトは手のひらに力を入れて耐えた。


「ポッポ、“でんこうせっか”だ!」

「ロコン、かわして……!」


速さはあるが真っ直ぐロコンへ突っ込んでくるポッポを、ロコンは素早く身を翻すことでかわす。
地面に翼を叩きつけることで体勢を立て直そうとするポッポに、ロコンは大きく息を吸った。


「“ひのこ”」


ミナトの指示と共にロコンは小さな炎をいくつも発射した。
体勢を崩していたポッポはかわすことも出来ず、炎を真正面から浴びていった。
一度羽ばたき空へ逃げたポッポは、何度か頭を振ると猛々しく鳴いた。
まだやれるという意思表示だろうか。


「まだやれるなポッポ!“たいあたり”だ!」

「ロコン、“おにび”」


ポッポを鼓舞するようにハヤトが声をかければ、ポッポはそれに応えるように高く鳴く。
強い信頼関係が見て取れる。
“おにび”でポッポの動きを封じようとミナトはロコンへ指示を飛ばす。
しかしポッポはぐんぐんとスピードを増して、軽々と“おにび”をかわしていく。


「その調子だポッポ!そのまま“でんこうせっか”!」

『うっぐ……!』


加速して勢いを増したポッポは、突進するようにロコンへぶつかっていった。
衝撃で飛ばされそうになる体を、ロコンは四つの足に力を込めることで引き止めた。
ロコンは苛立ったように地面に尾を叩きつけると、ミナトを振り返る。
その目は闘志でぎらついていた。


「畳みかけるぞポッポ!“かぜおこし”だ!」


両翼を激しく羽ばたかせたポッポは、ロコンへそれをぶつけてくる。
強い風速に飛ばされそうになるロコンは、再度耐えるように体を低く構える。


「“でんこうせっか”で回り込んで……!」

『了解……!』


飛び出すように“かぜおこし”の範囲から逃れると、ロコンは勢いそのままポッポの背後へと回り込んだ。
空を飛ぶポッポへと跳躍したロコンは、尾を振り抜くようにしてポッポへ叩きつけた。
飛んでいたポッポはバランスを崩し、翼を激しくばたつかせている。


「とどめの“ひのこ”……!」

「ポッポ!」


外さないとばかりに狙いをつけたロコンは、叩きつけるように炎の塊をポッポへぶつけていった。
ぽとりと音がしそうなくらいあっさりと、ポッポは地面に横たわった。
その姿を見たロコンは胸を張るように大きく息をつく。
審判が緑色の旗を振り上げた。


「ポッポ戦闘不能!ロコンの勝ち!」


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