花曇りの空 | ナノ

07


『……捕まえた?』


モンスターボールを片手で掴んだミナトにロコンが近寄ると、ミナトは小さく頷いてモンスターボールをロコンの目線まで近づけた。
モンスターボール越しに会ったドーブルの瞳に、ロコンはふとその大きな瞳を緩めた。
ロコンは小さく細く息を吐き、六つの尾を小さく揺らしている。


「二人ともお疲れ様」

「世羅」

「ミニリュウとガーディもこっちに向かってるみたいだ、もう近くまでいる」


先ほどのバトルで何かあったと察知したのだろうか。
世羅の言葉通り、しばらくすると長い草を掻き分けて擬人化したミニリュウが姿を現した。
その腕にはガーディが収まっている。
草むらを抜けたガーディはミニリュウの腕から飛び出すと、一目散にロコンへと駆け寄って行った。


『ロコン大丈夫!?』

『何が』

『さっき野生のネイティ達があっちでバトルしてる言ってて!それでネイティ達が言ってた方向ってロコン達が向かった方向だったから!!』


平然としているロコンの周りを、ガーディは何度も何度も回り続ける。
その眉は心配そうに垂れ下がり、まるでロコンの体に怪我がないか見ている母親のようでもあった。
その内にロコンの尾で叩かれるガーディを見て、ミナトは気まずげに黙ったままでいるミニリュウへと目を移した。


「どうしたの、ミニリュウ」

「あー……いや、怪我ないんか?」

「?ないけど……」

「さよか……ならよかったわ」


ミナトがそう答えれば、ミニリュウはほっとしたように表情を和らげた。
先ほどまでとは違うミニリュウの態度に一度瞬きをするが、ミナトはすぐに彼から目を逸らした。
ミナトのつれない態度にミニリュウは困ったように笑みを浮かべて、自身の頭に手を当てた。


「ガーディ、そのボールにドーブルを捕まえたから」

『えっ!』

「後は、キミ達で話しあってこれからどうするか決めて」

『あ、ありがとう!ありがとう二人とも!!』


じゃれ合っているガーディへそう声をかければ、ガーディは嬉しそうに瞳を輝かせた。
何度もミナトと世羅へ頭を下げるガーディを止めたのは、世羅だった。


「ガーディ、オレは何もしていないんだ……実際にドーブルと戦ったのはロコンだ」

『ちょっと、余計なこと言わなくていいんだけど』

『そうなの!?ありがとうロコンー!!』

『あー、もう!うざい!!』


世羅の言葉にガーディは少し後ろでつん、とそっぽを向いていたロコンへ突進をかけた。
ごろごろと二匹の体が地面を転がり、ガーディは全身で感謝を表していた。
下敷きになったロコンは鬱陶し気に前足でガーディの顔を押しているが、ガーディは気にしていないのか大きく尾を振っている。
再度ロコンの尾で何度も叩かれ、ガーディは漸くロコンから離れてドーブルのボールへと駆けていった。


『ありがと』


足下から小さく、まるで独り言のように囁かれた言葉にミナトは誘われるようにロコンを見つめた。
ロコンはじっとミナトを見上げていた。


『僕達だけじゃどうにもならなかったし』

「ボクはドーブルにボール当てただけだけど」

『指示したじゃん、下手だったけど』


一言多いロコンの言葉に、ミナトは返す言葉もないのかただロコンを見る。
消化しきれない感情を持て余すミナトにロコンは口端を上げて悪戯な笑みを浮かべた。


『だから、ありがと』


きつい物言いをしたり叩いたりとしていていたロコンだが、ガーディを思う気持ちは強かったようで。
ドーブルとの話し合いがついたのか嬉しそうに笑みを浮かべるガーディに小さく、柔らかく笑みを浮かべた。
しかし次の瞬間にはその笑みを消し、ロコンはガーディへその自慢の尾を振り下ろした。
完全に油断をしていたガーディはロコンのその一撃を真に受け、唸るように声をあげた。


『何すんのさロコンー!』

『そろそろ君のご主人様が心配する頃なんじゃないの?』

『あ!』


ロコンの声に空を見上げれば、先ほどよりも橙色が空を覆っている。
この分ではあっという間に夜になるだろう。
ガーディは慌てたようにミナト達を振り返ると、何度も口にした言葉を告げた。


『本当にありがとう!おれ、何にも出来ないけど、何かあったら力になるから!』

「……」

『またね!みんな!!』


それだけ告げると、ガーディは初めて会った時と同じようにその口にモンスターボールを銜えて、慌ただしく駆けていった。
その後ろを呆れたようにロコンが続き、一度だけミナトを振り返った。
何かを言いたげに何度か口を開閉させたが、結局ロコンは何も言わずにガーディを追って行ってしまった。


「あー……わいらもセンターに戻るとするか?」

「そうだね、そろそろ日も暮れるし……急がないと」


最後のロコンの表情を一度だけ思い浮かべたミナトだったが、緩く顔を左右に振ると、次にはいつもの表情へと戻っていた。
一度小さくため息をつくと、ミナトは今度は遺跡の中を通ってキキョウシティへと足を進めた。


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