花曇りの空 | ナノ

06


ミニリュウ達を置いて先に遺跡の奥へと足を進めたミナト達は、草むらでドーブル探しをしていた。
いくつかの洞穴が伺え、そこには何人かの白衣の男女が入っていくのが見えた。
あの洞穴の中に彼らの探求心を揺さぶるものがあるのだろうが、生憎とミナト達に全くと言って良いほど興味は沸かなかった。
空を見上げてみれば、遠くの方から指す光が橙色に輝いている。
早く探し出さなければすぐに日が暮れ、夜になってしまうだろう。


『ああ、こんなとこにいたの』


ガサガサと草を掻き分け姿を現したのは、ロコンだった。
その後ろにガーディやミニリュウの姿は見えない。
窺うようにロコンを見れば、ロコンは察しが着いたのかあっさりと頷いた。


『あの二人は別行動で探すってさ』

「……そう」

『それより、そっちは何してんの?』


ロコンが鼻先で指した先には、何かを探るように目を閉じている世羅の姿があった。
時折形のいい耳が何かに反応するように動いている。
世羅の集中を切らさないように口元に指を当てたミナトに、ロコンは怪訝そうな表情をしながらも素直に口を閉じた。


「……いた」

「見つけた?」

「ああ、こっちだ」


静かに、男にしては大きめの瞳を開いた世羅は先導するように先を歩き出した。
ミナトは急に歩き出した世羅に疑問を持つこともなく、当然のように着いていく。
突然の二人の行動に、ロコンは慌てて二人を追いかけた。


「世羅は周りの気配みたいなものに敏感なんだよ」

『へえ……』

「それで、今は近くにドーブルがいないか探してもらってたんだ」


ミナトの膝の辺りまで伸びきった草を踏みしめ、世羅の後を追う。
途中、草に埋もれそうになりながら跳ねるように進むロコンに声をかければ、ロコンは何ともないと言うように返事を返した。
本人が問題ないと返答するのならば問題はないだろう。
そう判断をしたミナトは、少しだけ歩く速度を落とした。


「ミナト、あそこにドーブルがいる」


先を歩いていた世羅が足を止め、ミナトを振り返った。
世羅の指さす方向には、水辺でくつろぐ一匹のドーブルの姿があった。
周りに他のドーブルやポケモンの姿は見えない。


「行こう、とりあえず説得してみる」

「断られたときはどうするんだ?」

「そのときは……頼んだよ、ロコン」

『は?』


あっさり見つかったドーブルをぼんやり見ていたロコンは、唐突に振られた内容にポカンと口を開いた。
じっとミナトを見つめるロコンに、世羅がそっと膝を折ってロコンと目を合わせる。
少しだけ伏せられた瞳が寂しそうな、それでいて悔しそうな色をしていて、ロコンは少しだけたじろいた。


「オレはバトルが出来ないから……万が一の時は、頼む」

『バトル出来ないって……何それどういうこと、』

「詳しく話してる場合じゃないよ、二人とも」


詳しく話を聞きだそうと口を開いたロコンを止めたのは、じっとドーブルを観察していたミナトだった。
草陰に隠れて声を潜めていたとしても、人間よりもよっぽど鋭い五感を持つポケモンには気づかれてしまったのだろう。
今にも逃げだそうとしているドーブルの前に、ミナトは躊躇なく姿を現した。


「ちょっといい?ドーブル」

『うわっ、な、なんだよ!』

「キミのこと、捕まえたいんだけど……ボールに入ってくれる?」


突然現れ、しかも声までかけられたことにドーブルは大きく肩を震わせた。
そして、続けて言われたことに今度は動揺したように大きな瞳を幾度も瞬きをした。
しばらくして、ミナトの言ったことが理解できたのか、ドーブルはにいっと口端を釣り上げた。
好戦的なその笑みに、ミナトは少しだけ身構える。


『捕まえたいんなら、俺を倒してからにしろよ!』


そして、言葉と同時にドーブルは長い尾をしならせてミナトを攻撃してきた。
ドーブルの“おうふくビンタ”を身軽にかわすと、ミナトは背後を振り返った。
目のあったロコンは、思い出したように草むらから飛び出て、ミナトの前へと立った。
世羅は、そんな一人と一匹の後ろに控え、いつでも飛び出せるように小さく構えた。


『君ねえ……!野生のポケモンの前にいきなり出るとか何考えてるわけ!?』

「文句は後、ほら来るよ」


後ろを振り向いて怒鳴るロコンに、ドーブルは淡く緑に光る光をこちらに向けて発射してきた。
ミナトの声に反応してひらりとそれをかわしたロコンは、ぎりぎりと歯ぎしりをしてドーブルへ向き直った。


『僕が使えるのは“ひのこ”と“でんこうせっか”と“おにび”だから!
しっかり指示出さないと君からはっ倒すから覚悟しなよ』

「……分かった」


ロコンの言葉に、ミナトは驚いたように目を見開いた。
普通であれば野生のポケモンであるロコンが、自身のトレーナーでもないミナトの言うことを聞くなどあり得ない。
小さいながらも頼もしいその背を見て、ミナトは一度大きく頷いた。


「ロコン、“でんこうせっか”」


ぐっと四本の足に力を入れたかと思えば、ロコンは思い切り地を蹴りドーブルへと飛びかかって行った。
思ったよりも早いそのスピードに、ドーブルは怯んだように動きを止めて体でロコンの技を受けた。
ごろごろと地面を転がるドーブルは、次の瞬間には体勢を立て直し、口を大きく開けた。
勢いよく発射される水の塊に、今度はロコンが動きを止めた。


「もう一回“でんこうせっか”、かわしてロコン」

『、了解』


落ち着いたミナトの声に、我に返ったようにロコンは“みずでっぽう”をかわした。
上手くかわされたことに、ドーブルは小さく舌打ちをした。
そして、今度はドーブルがその尾を素早くしならせてロコンへ駆けてくる。
先ほどミナトへ威嚇のように放った、ドーブルの“おうふくビンタ”だ。


「ロコン、“ひのこ”」


直線上にただただ突っ込んでくるドーブルに、その炎の固まりは容易に当てることが出来た。
真正面からくらったその攻撃にドーブルの足下がふらつくが、ドーブルは一度左右に頭をふることで耐えきった。
ドーブルはにやりと笑みを浮かべると、今度は長いを尾をゆらゆらと揺らして空中に絵を描き始めた。


『お前の技、お返ししてやる……!』


絵が描き終わると同時、ドーブルは先ほどロコンが放ったものと全く同じものをロコンへ向けて発射した。
ミナトが小さく声を出すと炎はロコンを簡単に包み込んだ。
ドーブルの“スケッチ”により、ロコンの“ひのこ”がコピーされていた。
けらけらと笑い声を上げる冷静にドーブル見据えていたミナトは、静かに炎を払ったロコンに向けて声をあげた。


「大丈夫?」

『当たり前じゃん、僕の特性知ってるでしょ?』


攻撃を受ける前より、むしろ生き生きとしているロコンにドーブルは目を白黒させた。
ロコンの特性は“もらいび”。
炎タイプの攻撃を受けると炎技の威力があがる、このロコンの特性をドーブルは知らなかったらしい。
怯んだように動きを止めたドーブルへ、ミナトは最後の指示を飛ばした。


「とどめの“ひのこ”」

『分かってる』


先ほどよりも段違いに威力の上がった炎がドーブルを包み込み、燃え上がる。
自然に沈静化した炎の痕には、目を回したドーブルは横たわっていた。
静かにドーブルに近寄り、持っていたモンスターボールを押し当てる。
気絶したドーブルは抵抗することもなく、大人しくモンスターボールの中に収まったのだった。


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