04
「はい」
店員からモンスターボールを買い取ったミナトは、人目を避けて32番道路へとやってきていた。
買い取ったモンスターボールからその内の一つを取り出したミナトは、後ろを大人しく着いてきていたロコンとガーディへとそれを放る。
放られたボールと二匹を見ているミナトを交互に何度も見たガーディは、そのふさふさの尾を振って顔を綻ばせた。
『ありがとう!!』
『何お礼言ってんの、ばか』
『ば、ばか!?ばかじゃないよロコンのあほー!!』
つんと顔を逸らしたロコンに勢いよく飛びかかったガーディは、そのままじゃれつくようにロコンへのし掛かっていった。
どうやらロコンよりもガーディの方が一回り程大きくらしく、ロコンはガーディの下でじたばたと藻掻いている。
よくよく見てみれば、ガーディはロコンよりも手入れの行き届いた毛並みをしていた。
『っていうかね、人間に僕達の言葉分かるわけないじゃん
お礼言いたいならちゃんと擬人化しなよね』
『あ、そうだった!』
ガーディの柔らかい腹を、その小さな可愛らしい足で蹴り上げたロコンは動きを止めたガーディの下から這い出る。
何どか自身の体を揺すり毛並みを整えれば、藻掻いた拍子に乱れた毛並みは美しく整った。
「あ、別に擬人化せんでも大丈夫やでー
わいと世羅はポケモンやし、こっちはわいらの言葉が分かる嬢ちゃんやから」
「、ちょっと何勝手にそんなこと喋ってるの」
昨日手持ちに加えたミニリュウにさえ、最後の最後まで明かさなかった秘密をあっさりと口にされ、ミナトは一瞬息をつめた。
すぐにミニリュウを見上げれば、悪戯に笑みを浮かべるだけで謝罪も弁解も返ってはこない。
それにまた苛立つ感情をぐっと堪えていれば、なんだか足下から強い視線を感じた。
『すごい!俺たちの言葉分かるの!?』
きらきらと瞳を輝かせたガーディと、伺うようにこちらを見上げるロコンの二対の瞳に、ミナトはたじろくように目を逸らした。
その反応から真実だと悟ったのか、ガーディはすごいすごいとはしゃいでいる。
そんなガーディを呆れたように見ていたロコンは、すっとその丸い瞳をミナトへ向けた。
『それで?なんであんたはボール泥棒の僕達にあんなまどろっこしいマネまでしてこんなことしてくれたわけ?』
ロコンは自身の柔らかそうな前足で、目前にあるモンスターボールを叩いている。
赤と白に塗られたボールの赤い部分には、くっきりとガーディの歯形が残されていた。
逸らすことなく、真っ直ぐに見上げてくるのはロコンのココアブラウンの瞳だった。
「……あのショップ店員」
『店員が何』
「あの見下げる目が、気にくわなかっただけ」
ポケモンだからと、訳も聞かずに冷たく二匹を、まるで蔑むように見据えたショップの店員の目をロコンは思い出す。
そして、その目を向けられた当人でも無いのにそう言って除けたミナトを見上げる。
半分を藍の髪で覆われたその顔に表情はなく、赤い瞳もただただ凪いでいるだけだった。
『ふうん?』
「……何、その反応」
『別に?ただ、君って意外とポケモン好きなんだと思って
仏頂面だけど』
半ば出任せのようなその言葉に、少しだけ瞳を丸くしたミナトにロコンは少しだけ気分が浮上した。
すぐさま元の仏頂面でただただロコンを見下ろすミナトは、少しだけ言葉を選ぶように瞳を宙に滑らせた。
「ポケモンの行動に意味がないなんてこと、ないでしょ」
『よく分かってんじゃん』
結局返ってきた言葉に自身の問いの答えはなかったが、ロコンはミナトに初めて笑みを向けたのだった。
ミナトとロコンの会話が一段落したところに、ガーディがそのふさふさとした尾を揺らしながら近寄って来た。
伺うようにロコンを見たガーディは、ロコンに一つ頷きを返されぱっと顔を明るくさせた。
二匹の行動を、ミナト達は口を挟むことはせず、見つめる。
『あの、さっき助けてもらってまた頼み事をするのは、なんだかとっても気が引けるんだけど……』
「何かあったのか?」
そわそわと首を左右に振り目を伏せるガーディだが、ゆらりと揺れるその尾には隠せない期待が現れていた。
今度はいったい何を頼まれるのか。
ミナトは小さくため息をついた。
『おれと、ポケモン捕まえるの手伝って!』
そしてガーディは、無邪気に、しかし真剣にそう言ったのだった。
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