花曇りの空 | ナノ

02


時刻は巡り、時計の針は午後の2時を指していた。
太陽は少し傾きはしたがまだまだ地面を照らしている。
眩しすぎるそれに目を細め、ミナト達はキキョウシティを散策していた。


「ほんまのほんまにあれが初バトルやったんか?」

「ほんとだよ、ボクの手持ちは世羅だけだったし
その世羅はバトル苦手だからね」

「あー……せやったせやった……すまんな、嫌なこと聞いて」

「いや……気にするな」


ミナトが原型の言葉が理解出来ると言っても、こんな町中でそれを披露するわけにはいかない。
従ってミナトは世羅と擬人化したミニリュウの三人でキキョウシティをぶらついていた。
ミナトとしては少しでも早くヒワダタウンへ向かいたいところだったが、この時間から出ても野宿をするはめになるだろうとミニリュウから返事を受けて早々に諦めた。


「すまんなあ、初バトルでいい思いさせてやれんくて」


眉を少しだけ下げて苦々しい表情を浮かべたミニリュウを、ミナトはじっと見つめた。
その瞳に少しだけ、悔しそうな色が見える。


「……別にそれは気にしてないけど」

「それはそれでちょい傷つくんやけど!」


ふっと視線を逸らしてそう言えば、ミニリュウはおどけたように声をあげた。
ミニリュウに苦笑ではあるが笑みが戻り、普段の陽気さが帰ってきた。
その陽気さが戻ってきたミニリュウは、少し後ろの方でミナトを追いかける世羅と横を歩くミナトの肩に腕を回し、にっかりと笑みを浮かべた。


「そこでわいから1個提案があるんやけど!」

「何……っていうか手、」

「この町にはな、マダツボミの塔っちゅう初心者トレーナーの修行場があんねん!今からそこに行こうや、3人で」


まるで逃がさないとでもいうようにがっちり回った腕を解こうと躍起になるミナトに、ミニリュウはそう言葉を告げる。
外そうとミニリュウの腕を掴んだミナトと、大人しく肩を掴まれていた世羅がきょとんとした表情を作った。
揃って同じ反応をしたミナトと世羅に、ミニリュウはからからと笑い声をあげた。


「そこにおる住職さんや坊主がバトルしてくれるんやて
知識はあるけど経験の少ないあんたにはぴったりな場所やろ?」

「だから、ボクは別にバトルなんてしなくてもいいんだってば」

「せやけど力は欲しいんやろ?やったら少しくらい努力せんとなあ」


ミニリュウの尤もな返答に、ミナトはぐっと唇を噛んだ。
頭を俯けて考えを巡らすが、上手い言い訳が思いつかなかったのだろう。
再び肩に回されたミニリュウの腕を、今度は少々強引に叩き落とした。
ミニリュウはそんなミナトの態度に笑みを浮かべると、ぱっと二人の肩から腕を下ろした。


「決まりやな!それになー旅って言うたらジム戦してリーグ挑戦が一般的な目標やん?
わいも一回そう言うんしてみたかったんや」

「ボクはそれが目的じゃない」

「わかっとるわかっとる」


ミナトがその後に続ける言葉が想像出来たのか、ミニリュウはそれ以上しつこく言うことはなく話を切り上げた。
そして、手招きをしながらマダツボミの塔への案内を始める。
しぶしぶそれに着いていくミナトの背に、珍しく世羅の静止の声がかかった。


「修行するのは賛成なんだが……それより先にミニリュウのボールを買わないとまずいんじゃないか?」


世羅の言葉に振り返ったミナトとミニリュウはぴたりと動きを止めた。
先に口を開いたのはミニリュウだった。


「……え?」

「あ、」

「え、なんやそのあって
わい、てっきりあんたがまだ往生際悪くわいを捕まえたくないから未だにボールに入れてくれないんやと思うとったんやけど」

「いや、ただ単純にボールを持ってないんだ
ミナトは今まで、頑なとしてポケモンを捕まえようとしなかったから」


思い出したとでも言うように短く声をあげたミナトに、ミニリュウは困惑気味に詰め寄る。
ふいっと顔を逸らしたミナトの後ろ、世羅がそうミニリュウの問いに答えると、ミニリュウは頭を抱えて声をあげた。


「なんっやねんそれええええええ!悩んだわいが馬鹿みたいやないか!!」

「……さてと、まずはフレンドリィショップに行かなきゃね」

「無視か!無視なんか!!」


すたすたと競歩のような速さで歩き去るミナトを、ミニリュウが声をあげて追いかける。
仕舞いには走り出してしまった二人の背は通りを曲がったのか見えなくなってしまった。
世羅はふと優しげに、寂しげに表情を浮かべると、ミナトとミニリュウを追いかけるために足を速めた。


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