花曇りの空 | ナノ

01


「おっはようさーん!もう昼の12時回ったで!!いつまで寝とんねん、ほら起きやー」


遠慮無く部屋のドアを開けた乱入者は、そう跳ねるような声色で言うと閉め切っていた部屋のカーテンを開けて回っていった。
カーテンに遮られていた陽の光が一気に部屋の中へと入り込み、ミナトは迷惑そうに眉根を寄せた。
うっすらと瞳を開けると、部屋の中で動き回る水色の髪が見えた。
寝起きで回らない頭を回転させ、ミナトはしばし考える。


「…………ミニリュウ」

「おっ、やあっと起きたかお寝坊さん!」


声をかければ、彼特有のにっかりとした眩しい笑顔を浮かべられた。
そのままこちらへやってくることをすばやく察知したミナトは寝乱れた前髪を手櫛で素早く梳かす。
いつも通り、視界の半分が自身の髪に遮られ、ミナトは安心したように一度息をついた。


「いくら寝たのが明け方だからって言うてもそろそろ起きないとやばいんかなーって思って起こしに来たで
迷惑やったか?」

「……いや、大丈夫……世羅は?」

「朝食兼昼食作ってるでー!びっくりしたわあ、あいつ料理出来るんやなあ」


からからと笑みを浮かべるミニリュウを見て、そしてカーテンの開けられた窓を見た。
窓の外には屋根を紫で塗られた建物がぽつぽつと建てられていた。

ここは、キキョウシティ。
古き良き里の景色が今も残されている町。
今日の明け方このキキョウシティに到着したミナト達はポケモンセンターで一室借りると泥のように眠り込んだ。
窓の外では野生のポッポ達がじゃれ合う声が聞こえる。
日差しも強くなっているのだろう、窓から差し込む光がいやに眩しく感じて、ミナトはそっと瞼を閉じた。


「世羅には顔洗ってくるって言っておいて」

「了解やー準備して早く来るんやでー!待っとるから」


適当に布団を片づけると、ミナトは部屋の奥にある洗面所へと足を進めた。

ポケモンセンターにはポケモンを回復させるだけでなく、旅をするトレーナーが泊まるための部屋も準備されている。
その宿泊施設はトレーナーであれば誰でも無料で使用することが出来る。
ただし、使用の際にはトレーナーカードの提示を求められるが。
もちろん一般人も利用出来るが、こちらの方は有料となるらしい。
借りられる部屋にはベッド、洗面所、風呂の他にも簡単なキッチンと料理するための材料なんかもおいてある。
これだけ至れり尽くせりで経営の方は問題ないのかと部屋を借りる前にジョーイから説明を受けて思ったが、そちらの方はどうやら税金の方で賄われているようだ。

水で顔を洗い流し、一度鏡を確認する。
顔の右の頬にかかっている髪が跳ねていた。
少し手で押さえて治してみるがすぐに元通りになってしまう。
ミナトは早々に諦めると世羅とミニリュウの待つ部屋へと足を進めた。


「おはよう、ミナト」

「……おはよ」


洗面所から出てキッチンの近くへ寄れば、世羅の作る昼食のいい匂いが辺りに漂っていた。
食べやすいようにサンドイッチとスープがテーブルの上に並んでいる。
サンドイッチには細かく刻まれたふわふわのタマゴ、みずみずしいトマトやしゃきしゃきとした食感のレタス、香ばしい香りのハム。
そして木の実を煮詰めたジャムが挟まれたもの。
スープには煮込まれた野菜が薄味のスープに絡められていた。

すでに椅子に座っているミニリュウと飲み物をついでいる世羅の間にある椅子に座り、手を合わせる。
小さく食事の前の挨拶をすれば、それに続くようにミニリュウも手を合わせた。


「おっ旨いやんか世羅!」

「……ありがとう」


ハムとレタスのサンドを掴んだミニリュウが一口食べると、満面の笑みでそう言った。
ミニリュウに飲み物をついでいた世羅は、一度きょとんとした顔をした後にうれしそうに目元を緩めた。
その横でミナトはタマゴサンドを手に取っていた。
ふわふわとろとろの卵が口の中でとろけている。
世羅の確かな腕前は、全てスズネに教え込まれたものだった。


「そういやこれからどないするんや?」


優しい味のする野菜スープに口をつけていると、別のサンドイッチを手に取ったミニリュウが思い出したように尋ねてきた。
スープの入ったカップを一度テーブルへ置き、少しだけ目を伏せる。
ミニリュウはそんなミナトの行動に首を傾げた。


「……とりあえず、ヒワダタウンに行こうと思ってるよ」

「ヒワダあ!?またなんでそないなとこに……」


今いるキキョウシティからヒワダタウンまで長い一本道を進み、つながりの洞窟という洞窟を抜けなければならない。
途中の水辺も少なく、水辺に住まうミニリュウはあまり寄りつかない場所だろう。
そしてヒワダタウンは隣り合う町の、キキョウシティからもコガネシティからも向かうことに不便を感じる場所でもあった。
人のあまり集まらないその町にいったい何の用があるのか、ミニリュウはきっと疑問に思っているのだろう。


「……ちょっと、確かめたいことがあって」

「ヒワダに?」

「そうだよ」


それだけ言うと、ミナトはそれ以上何も言うつもりがないのか、先ほど置いたカップに再び手を伸ばした。
ミニリュウが一応、世羅の方へ顔を向けるがそちらも反応はなし。
ミニリュウは手に持っていたサンドイッチを嚥下して、そして口を開いた。


「それやったらもうちょい仲間増やした方がええんやないか?」

「……なかま?」

「そうや!こっから先、ヒワダまでは遠いし、わい一人やと途中で力尽きてしもたらどうにもならんしなー
ああ!あとジムに挑戦するってのはどうや!?てっとり早く強くなれると思うんやけど!」


カップを握りしめたまま動きを止めたミナトに、ミニリュウは満面の笑みで言葉を続けた。
心情を察するに、名案思いついた!というところだろうか。
だがそれとは対照的にミナトは先ほどのミニリュウの言葉に首を捻るばかり。
理解出来ないとでも言うように眉間に皺を寄せて考える。


「……とりあえず、言いたいことはいろいろあるんだけど」

「なんや?」

「ボク、この間キミとヨシノでバトルしたのが初めてなんだけど」


ミナトの突然の告白に、今度はミニリュウが動きを止める番だった。


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