花曇りの空 | ナノ

08


突然擬人化姿をとったミニリュウに思ったよりも親しげに話しかけられ、ミナトは困惑したように目を瞬かせた。
ミニリュウは人懐こそうな笑みをにこにこと浮かべている。


「あ、うん……さっきは助けてくれてありがとう、ミニリュウ
それより、さっきの言葉っていったい…?」

「ああ!一飯の恩ってやつや!」

「……何のこと?」


ミナトの言葉にミニリュウは待ってましたとばかりに声をあげた。
しかしミナトはその言葉に全く覚えがないのか、首を傾げる。
そんなミナトの様子にミニリュウは一度ずっこけると、ミナトに指を突きつけて言った。


「昨日わいに木の実くれたんはあんさんやろ!?忘れたとは言わせへんで!!」


ミナトは突きつけられた指をじっと見つめ、ミニリュウの言葉を脳内で反覆した。
昨日、木の実、この二つを繰り返したところ、一つ思い出した。
昨日の昼間、木の実を採りに行ったときに川底でお腹を空かせてぐったりと丸くなっていたポケモンのことを。


「……ああ、昨日の……あれ、キミだったんだ」

「ミナト、そんなことしてたのか?」

「うん、お腹すかせてたからモモンの実を少し」

「そうだったのか」

「あんときはほんま助かったわー
しばらく何も食ってなかったからそろそろ餓死しそうだったんや」


思い出してもらえてほっとしたのか、ミニリュウはくったくのない笑みを浮かべている。
しかし、次の瞬間には少しだけ眉に皺を寄せて厳しい顔をした。


「それにしても、あん時何でポッポ達に背向けて逃げたん?
あんたポケモンやろ?適当に戦って追っ払えば良かったんとちゃう?」


ミニリュウはそう言って、世羅をじっと見つめた。
同じポケモン同士、擬人化をしていてもすぐに気が付いたのだろう。
ミニリュウの純粋な質問に、世羅はたじろいたように目を逸らした。


「……オレは、」


目を逸らしても感じる、ミニリュウの純粋な疑問に彩られた視線。
世羅は震える拳を無理矢理押さえつけ、恐怖で強ばった顔をミニリュウへ向けた。
その表情にミニリュウはきょとんと首を傾げる。


「オレは、」

「世羅は訳あってバトルが出来ないんだ」

「そうなん!?悪いなあ…言いにくいこと聞いてしもて」

「……いや、」


絞り出すように声をあげた世羅の言葉を遮るように、ミナトが当たり障りのない言葉で告げた。
申し訳なさそうなミニリュウに世羅の表情は浮かない。
またそっと二人から視線を逸らした。


「やからあないに大量にスプレー吹っかけとったんか……」

「うん」

「やけど、ポケモンおらんのに草むら入るんはあかんって言われてへんの?」

「ちょっとお使いに行かなきゃいけないんだよ」


ミナトの言葉にミニリュウは一度考え込むと、ぱっと顔をあげた。
今までで一番の笑みを浮かべたミニリュウは、自分を指さして言った。


「せやったらわいをゲットして連れて行く言うんはどうや?
そしたらもうスプレー使わんでもええし、突然襲いかかられても安心やろ?」

「遠慮するよ、ボクは誰かをゲットする気はないんだ」

「おおう、素早い返答やな……」


いかにも名案だと瞳を輝かせるミニリュウの提案を、ミナトはすっぱりと断る。
ごめんね、と言ったミナトにミニリュウは慌てて両手を大きく横に振った。


「ええてええて!気にせんでええって!」

「そう?ありがとう」

「変わり身早いな!」


ミニリュウが気にするなと言った途端、ミナトはけろりとお礼を言っていた。
そんなミナトと、おろおろとこちらを見ている世羅を見て、ミニリュウは一度大きくため息をついた。


「せやけどなあ……このまま二人で行かせるんはなんっか心配なんやけど……なんでや?」

「さあ……?」

「何が心配なんだ、ミニリュウ」

「それが分からんからこうして悩んでるんや」


腕を組んで考え込むミニリュウに首を傾げるも、ミニリュウは目を閉じているためさっぱり気づいてくれない。
しかたなくミナトと世羅はミニリュウの考えがまとまるまで待つことにした。


「せやなあ……放っておくのが心配やったらついてけばええんかな」

「……捕まえないよ?」

「捕まえなくてええよ、ただ着いてかせて欲しいんや
……えーと、そのお使い?のところまで!まあ体のいいボディーガードやと思ってくれてええで!」


にっかりと笑みを浮かべたミニリュウにミナトと世羅は少々面食らった。
まさかそんなことを言う野生のポケモンがいるとは思わなかったのだ。
普通ならば良くて見ないふり、悪くて襲ってくると言うのに。


「……それは、ボク達にしてみたらすごく助かることだけれど……キミにメリットは何かあるの?」

「あんたの気ぃが変わってわいを捕まえてくれるってことやな」

「……変わらないよ」

「それでもええよ」


ふ、と優しげな目をして笑みを浮かべたミニリュウに、ミナトはうろたえたように目を逸らした。
つきりと痛む胸に手を当て、数度深呼吸をする。


「?どないしたん?」

「何でもない……ミニリュウ、オレ達はヨシノの少し先まで行きたいんだ…少し付き合ってくれるか?」

「あ、ああ!もちろんやで!」


目を固く閉じて数度頭を揺らすミナトに、何かおかしいと察したミニリュウが手を伸ばす。
その伸ばされた手を、世羅が素早く掴み声をかければ、ミニリュウの視線はミナトから世羅へと移った。
わたわたと焦るミニリュウに、世羅は首を傾げる。

一度大きく息をついたミナトは、少々顔を赤くするミニリュウに事態を素早く察した。


「残念ながらミニリュウ、世羅は男だよ」

「え、……は?」


世羅に手を掴まれたまま、その横から聞こえた声にぴしりと動きを止めた。
そしてかちこちに固まった動きで、世羅の顔を凝視する。
そして震える指で世羅の顔を指さし、ぎこちない動きでミナトへ訴えた。


「男だよ」

「なんやてえええええええ!?」

「本当だ」

「ほんまやあああああああ!!
って!野外でやたらと脱いだりしたらあかん!!早く着直しなさい!!」


世羅が自身の上着をまくり、自らの鍛え上げられた上半身を晒す。
思ったよりも筋肉質な体型を見てミニリュウは再度大声をあげるが、すぐに注意し始めた。
ミニリュウの言葉に世羅は素直に自身の服を着直す。


「あー……びっくりした……」

「ちなみにミナトは女だ」

「え!?」

「確かめる?」

「結構です!!」


来ているパーカーのファスナーを掴むミナトの手をミニリュウが掴んで止める。
パーカーの下にはキャミソールも着ているため焦る必要はないのだが、とミナトは思いながらも素直にファスナーから手を離した。
ミニリュウは一度自身を落ち着かせるように一つ息をつく。


「あー……気悪くせんといてな?完っ全に性別逆やと思ってたわ」

「だと思った」

「さっきの時点で言ってくれておおきに……あやうく事故るとこやったわ」

「やっぱり?」

「なんの話だ」


神妙な顔で話しあう二人に、世羅が怪訝そうに眉をひそめる。
そんな世羅に、ミナトとミニリュウは気にするなというように手を振った。


「とりあえず、わいは言わんでも分かると思うけどミニリュウや
短い間やけどよろしく頼むわー」

「ボクはミナト、ヨシノまでよろしくミニリュウ」

「世羅だ、よろしく頼む」

「おん!任しとき!」


にっかりと眩しい笑顔を浮かべたミニリュウを先頭に、ミナト達はポケモンじいさんの家を目指した。


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