花曇りの空 | ナノ

07


ウツギのお使いに出たミナトと世羅は、目的地の中間にあるヨシノシティを目指していた。
朝早く出たおかげか、まだ日は高くない。
周りを少し見渡せばオタチやポッポがこちらを伺うようにして見ていた。
恐らくミナトが町を出る前に自身に振りかけた虫除けスプレーが効いているのだろう。
飛び出してくるポケモンは今のところいなかった。


「ミナト、そろそろスプレーが切れるぞ」

「ん、分かった」


世羅の言うとおり、ミナトは鞄から虫除けスプレーを取り出す。
人間ではいまいち効果の切れ目を把握することは出来ないが、ポケモンである世羅には敏感に感じ取れる。
世羅が口を出したと言うことは効力は薄まって来ているのだろう。
野生のポケモン達との距離も先ほどより近いような気もする。


『さっきからスプレーまくな!それすっごくいやな臭いするんだからな!!』

「わ……っ」


ミナトがスプレーを吹きかけようとすると、空中から突風がミナトめがけて吹き付けられた。
手で顔を覆うと同時に手に持ったスプレーは先ほど“かぜおこし”をつかったポケモンに奪われてしまった。
そのままスプレーは空中から落とされ、瓶ごと割れて地面に飛び散った。


「ミナト!」

「なんともないよ世羅
……それよりあの子、とても興奮してるみたいだ」

『あたり前だろ!このスプレーの臭い、めちゃくちゃ臭いんだから!!』


ミナトのスプレーを割ったのは、どうやらこの辺りに住み着いているポッポのようだ。
ポッポはバサバサと自身の翼を羽ばたかせてこちらを威嚇している。
世羅は、先ほどの“かぜおこし”の衝撃で尻餅をついたミナトの前へ出た。


「……虫除けスプレーって、臭いんだ」

「まあ……ポケモンが嫌がる臭いをさせて近寄らせないようにするものだからな……」

『そこじゃない!そこじゃないよばか!!』


若干ずれたことを言いながら立ち上がったミナトに、ポッポはさらに羽を羽ばたかせて抗議している。
土の付いたお尻を軽く払いながら首を傾げれば、ポッポは馬鹿にするなと言いたげにミナト達へ再度“かぜおこし”を放った。


「これは、話が通じなさそうだね」

「ああ、困ったな」


素早く攻撃をかわした二人は、困ったように肩をすくめた。
こうなることを回避するためにスプレーを使っていたというのに、結果は逆効果だったようだ。
気づけば、ポッポの仲間達が二人の周りを囲っていた。


『もう、早くここから出てけー!』

『そうだそうだー!!』


向かってくるポッポ達に、世羅はぐっと拳を握りしめて原型へと戻ろうとする。
ミナトはそんな震える世羅の手を掴んで止めると、そのまま世羅の手を引いて走り出した。
突然のミナトの行動に世羅は転びそうになりながらも足を動かす。


「ミナト!?」

「もう少し走ればヨシノにつく、ここは走るよ」

「オレは大丈夫だ……!」

「うるさい、そんなに震えて何言ってんの」


呆然としているポッポ達の囲いを全速力でぬけ、背後を振り返ることもせずミナトは走り続ける。
その少し後からポッポ達の怒号と追いかけてくる羽音が聞こえた。


『待てー!!』

『逃げるなんて卑怯だぞー!!』

『多勢に無勢のお前らの方が卑怯やでー』

『そうだそうだー!!……え?』


ポッポ達の声の中に、何だかおかしななまりが聞こえてミナトと世羅は足を止めた。
ポッポ達の方へ振り返れば、そこにはポッポ達と対峙するかのように一匹のミニリュウが佇んでいた。
ミニリュウはにこやかにポッポ達へ話しかける。


『そないなだっさいことせえへんで、ここは寛大な心で許したり
見てみい、こん人ら敵意のかけらもあらへんやないか』

『うるさーい!邪魔するとお前から倒しちゃうぞ!!』

『えーそれはめっちゃ困るんやけどなあ……』


しかしミニリュウの言葉に、ポッポは標的をミナト達からミニリュウへと変更してしまったようだ。
恐らく群れのリーダーだろう。
一匹がミニリュウへ“でんこうせっか”で接近している。


「危ないよ、キミ……!」

『大丈夫やでー!
……しゃあない、怪我させへん程度に追っ払うとするか』


ミニリュウはひょい、とその細い体をくねらせてポッポの攻撃をかわすと口から火の玉のような物を放った。
ミニリュウの“りゅうのいかり”だ。
攻撃をかわされたばかりのポッポはミニリュウの攻撃をかわすことは出来ず、直撃してしまった。


「……すご」

「ああ……強いな、あのミニリュウ」

『これ以上やるんやったら、容赦せえへんで?』


あっという間の出来事に、周りで跳び続けているポッポの羽音だけがむなしく響く。
ミニリュウの攻撃をまともにくらったポッポは、ミニリュウの言葉に一度びくりと体を震わせると素早く方向転換をした。


『お、覚えてろよー!!』

『あ、待ってリーダー!!』

『ちょ!そないな典型的な捨て台詞吐くやつ、わい初めて見たで!!』


逃げ去るポッポを追いかけるように、仲間のポッポ達も去って行く。
その背中達にミニリュウが声をあげるが、それは彼らには届いていなかった。
その場に残ったのは、ミナトと世羅、そしてミニリュウの三人。
じっとミニリュウを見つめるミナトと世羅に、ミニリュウはくるりと振り向いて、そしてぱっと体を光らせた。
次の瞬間、そこにいたのは水色のウェーブがかった髪を高い位置でポニーテールにしている男性。
その男性はにっかりと笑みを浮かべて、言った。


「やあっと追いついたで!怪我はないか?お二人さん!」


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