花曇りの空 | ナノ

05


「あ、博士達に視線のこと話すの忘れてた」

「視線?」


木の枝の上に腰を下ろした世羅が木の実を採取し、その下で待機しているミナトが持つ籠で上手くキャッチする。
なかなか息のあった行動だが、ふとミナトがこぼした言葉に世羅の視線が木の実からミナトへ移った。


「さっきポケモン達を研究所の中に戻す時感じたんだ
こう……ちょっとイヤな感じの」

「そうか……」

「……まあ、これ渡す時でいいかな」


そう言って籠を掲げるミナトに、世羅もそうだなと頷く。
ある程度集めると、世羅は身軽に木の上から下りてきた。


「後は……柔らかい木の実ばかりだな」

「モモンでこれやると悲惨なことになるしね……」

「前やってカナデに怒られたからな」

「前にやったのはブリーだよ」


ミナトが受け損なったブリーの実の果汁がべったりと服に付いてしまったのだ。
なかなか落ちない黒色のシミなのにもかかわらず、たまたまその日ミナトが着ていた服が悪かった。
真っ白のパーカー。
当然、もう外では着ることが出来なくなってしまいカナデにこってりと叱られてしまった。


「じゃあ、ボクはモモンを取りに入ってくるね」

「じゃあオレはクラボの実を」


それぞれ籠を持ち、それぞれの実が生っている所へ足を進める。

ここは研究所から少し離れた、自然に木の実が自生している。
そのためかよく野生のポケモン達も訪れている。
町からも少し離れていて、近くには綺麗な川もある。


「ごめんね、少し分けて貰うよ」

『どーぞー』


近くにオタチがいたため、軽く声をかけて籠いっぱいにモモンの実を採る。
柔らかすぎるモモンの実に四苦八苦しつつも何とか採取し終え、慎重に籠を持ち上げた。
勢い余って潰してしまったり、落としてしまわないようにゆっくりと足を進める。


『……もー……無理やー……』


川沿いを歩いていると、そんな声を聞こえた。
一瞬人間が近くにいるかと思い辺りを見渡したミナトだが、近くに人影はない。
しかし声は聞こえる。


『あかん……腹減って動けへんわ……』


川の底の方を見てみれば、ぐったりと丸くなる一匹のポケモンの姿があった。
どうやらミナトには気が付いていないようで、必死に空腹と戦っている。
ミナトは一度、自分の手元に目を下ろし、ゆっくりとモモンの実がたくさん入った籠を傾けた。


『!?な、なんや!?』


ぽろぽろと振ってくる柔らかい木の実。
それに驚いた様に辺りを見渡すそのポケモンを残し、ミナトは少しだけ軽くなった籠を抱えて世羅の待つ所まで足を進めた。






***



それぞれ四つずつ木の実が沢山入った籠を抱え、研究所に戻ってきたのはもう大分日が傾いてからだった。
八つの籠に入っている木の実はどれもつやつやと輝いていて、とても美味しそうだ。


「あ、おかえりなさい!ミナトちゃん、世羅君」

「ウツギ博士」

「うわあ!そんなにたくさん採ってきてくれたのかい!?
ありがとう、助かるよ」

「そんな……気にしないで下さい」


近くにいた研究員に籠を渡せば、ウツギと同じように笑顔でお礼を言われた。
気まずくなり、ウツギを見れば何だか考え込んでいる様な表情。


「……どうかしたんですか?ウツギ博士」

「あ、うん……実はね、ミナトちゃん達が出かけた後に僕にメールが入っててね……
僕の古い知人からなんだけど……」


知人であれば、連絡が来ても何ら不思議はないだろう。
未だ状況が掴めないミナトと世羅は首を傾げた。


「その知人がね……ちょっとしたことで大発見だ!って大騒ぎする人でね
で、さっき「今度こそ本物ですぞ!」ってメールが来ちゃって……」

「……でも、その人の所まで行ける人がいないんですね?」

「そ、そうなんだよ……あはは」


ウツギ研究所は近場に木の実を取りに行く時間がない程、人手が足りない。
困ったように頭を抱えるウツギは、何か思いついたようにバッと顔を上げた。
その瞳は真っ直ぐミナトと世羅に向いていた。


「そうだ!ミナトちゃん、世羅君。明日でもいいからその人の所までお使いに行ってくれないかい?」

「……え、」

「お願い!この通りだよ!!
ミナトちゃんなら世羅君もいるし、道中安全だろう?」


いきなりのことに固まるミナトに、ウツギは手を合わせて頭を下げてきた。
未だ状況に着いていけず、ミナトはおろおろとしている。
取りあえずウツギの頭を上げさせることにした。


「……でも、世羅は」

「あ、そっか……」

「すみません」


世羅は、酷くバトルを怖がる。
そのため今まで一度もバトルをしたことがなかった。
謝る世羅に、ウツギは慌てて両手を振った。


「ううん、気にしないで!僕こそごめんね
……あ、それならミナトちゃんにポケモンあげようか?」

「いえ、いいです
ボクには手に余ります」

「そ、そう……」


あまりにもはっきりと断ってしまったためか、ウツギは眉をハの字に垂らしてしまった。
そんなウツギの様子に何だか罪悪感が沸いたのか、ミナトは小さくため息を吐く。
確認するように世羅を見れば、世羅は構わないとばかりに頷いていた。


「……分かりました、ポケモンはいらないので代わりに虫除けスプレーをください」

「え、ミナトちゃん……?」

「行ってきますよ、お使い」


その瞬間、ウツギの表情がパッと明るくなった。
そして両手を強く捕まれ、上下に振られる。
ありがとう、と何度も繰り返しながら。


「その人の家はヨシノシティを通り抜けた少し北にあるんだ
今日はもう遅いから、明日の朝行ってきてくれるかい?」

「わかりました
……じゃあ、ボク今日は帰りますね」

「うん!今日は本当にありがとう!ミナトちゃん」


研究所にあった虫除けスプレーを貰い、ミナトと世羅は研究所を後にしようとドアへ足を進める。
そんな二人の背に、ウツギの控えめな声が届いた。


「ミナトちゃん、聞いてもいいかい?」

「……何ですか?」

「どうして、そんなにポケモンを受け取ることを拒むんだい?
何だか、頑なだなって思っちゃって…」


心配そうな眉を下げるウツギの言葉に、ミナトはピタリと足を止めた。
どうしてか。
そんなのは、決まっている。




「……ボクは、自分のことだけで精一杯なんです
他人のことまで見る余裕、ないんですよ」


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