花曇りの空 | ナノ

03


カナデは比較的すぐ、見つけることが出来た。

きゃーきゃーとはしゃぐポケモン達の中心で。
巻き込まれない様に器用にポケモン達をかわしながらデータを取っている灰色の髪の男。
麗容なその容姿に少々の不機嫌な色を載せた彼が、ミナトの義兄のカナデだった。

ひょいひょいとかわすカナデにムキになったのか、この中で一番やんちゃなワニノコがかぱっと大きく口を開く。
“みずでっぽう”発射準備だ。


『発射よーい』

「するな」


絶妙なタイミングでワニノコの頭を軽く、カナデはその手に持っていたバインダーで叩いた。
するとワニノコはふて腐れた様に大人しく口を閉じる。
その間にカナデはワニノコのデータを取っていく。
ミナトと違いポケモンの言葉など分からないのに、何とも素早い手付きだ。


「……兄さん」

「ミナトか」


一段落したところに声を掛ければ、カナデの紫苑色の瞳がこちらを向いた。
白みの強い灰色の髪に薄い紫苑色の瞳。
一見儚げな、母親譲りの容姿に反しカナデの性格は俺様そのもの。
現に今もミナトに対し、何しにきたと言いたげな顔をしている。

何故かは不明だが、カナデは自分の仕事場にミナトが入るのをよしとしなかった。
特に、自分の研究室には。
そのせいかミナトは、こうして毎日の様にウツギ研究所を訪れていてもカナデの研究室には一度も入ったことがなかった。


「お昼ご飯、届けに来たんだよ
母さんが、忘れてるから届けに行ってくれないかって」

「俺、今日はいらねえって言わなかったか?」

「さあ……ボク、そのときいなかったから」


恐らくその時、ミナトは紅と世羅と組手をしていた時間だろう。
家に戻れば大抵、カナデはカナデ自身の仲間に急かされ準備をしている時間なのだから。
因みに今日はサーナイトの和が“サイコキネシス”で外へ運んでいた。
いつもパシられてしまう彼に、玄関ですれ違ったミナトと世羅が思わず合掌した。
和からはテンプレートと化した苦笑いを返されたが。


「せっかく母さんが作ってくれたんだし、食べたら?
ちょうど仕事も一段落したんでしょ?」

「まあな」

「ポケモン達なら頃合い見てボクが戻しておくから」


ね、と言えばカナデはガシガシと頭を掻いてため息を吐く。
そして、かまえと言わんばかりに足に引っ付いていたワニノコを引き剥がしミナト方へ放り投げてきた。
わたわたと足をばたつかせるワニノコを危なげなくキャッチする。


「先に行ってウツギに報告してくる
お前もさっさとそいつら中に戻して戻ってこいよ」


そう言うとカナデは振り返りもせずに研究所内へ戻っていってしまった。
ワニノコを抱えたままのミナトの元へ、遊び相手のいなくなったポケモン達が集まって遊べと強請ってくる。
ミナトは一度、ワニノコの元へ視線を落とした。


「……あれは、待っててくれるって意味なのかな?」

『そうだと思うけどー?』


ミナトが首を傾げれば、何が面白いのかワニノコはそれとは逆の方へ首を傾げる。
しばらくそうしていれば、先ほどカナデが出て行った扉から世羅が姿を現した。
首を傾げ合う一人と一匹を見て、こちらも首を傾げた。


「……どうかしたのか?」

「カナデさんがよく分からない」

「……いつもじゃないのか?」

「それもそうか」


抱えていたワニノコを地面へ下ろし、集まってきたポケモン達を研究所内へと促す。
あっさりと行動を切り替えたミナトに習い、世羅も動こうとしないポケモン達を抱き上げた。
急に視界の高くなったポケモン達は無邪気にはしゃぐ。
ミナトもヒノアラシとチコリータを抱き上げ、足下のワニノコへ目をやる。
このワニノコは他の初心者用ポケモンよりも少しだけ年が上だ。
もうそろそろ新しく旅立つトレーナーへと預けられるだろう。


「……?」


急に鋭い視線のようなものを感じ、そちらへ目を向ける。
しかしそこにあるのは青々しい緑の葉を着けた木々だけ。


「……気のせい?」


先に中へ入ってしまった世羅を呼ぶべきか。
少しだけ迷ったミナトは、出来るだけ早くポケモン達を研究所の中へ入れてしまうことに決めた。


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