花曇りの空 | ナノ

01


―どさっ


暖かい風が頬を撫でて通りすぎていく。
浚われそうになった長い長い前髪を押さえた少女は少々鬱陶しそうに眉を寄せた。
乱れた髪を、丁寧とは言えない手付きで直すと一度空を振り仰いだ。
空は透き通るような青い青い晴天。
雲一つ見えない空を、少女は一度強く睨み付けた。


「……今日も、世羅の負けみたいだね」

「……そう言うのなら、お前も一度戦ってみろ」

「遠慮しておくよ」


少々不機嫌そうな声にそう返せば、世羅は間接をバキバキと鳴らしながら横たえていた体を起こした。
大分扱かれたのだろう。
一見美女と見間違う程の美貌には、擦り傷やかすり傷がたくさんついていた。
かく言う少女の顔や体にも細かい傷がたくさんついている。


「少し休憩にしよう
水分をとったらもう一度かかってこい」

「はい」

「分かりました」


容赦なくそう言い切った目の前の師匠は、二人に水の入ったペットボトルとタオルを投げて寄越した。
ありがたく水を受け取り、一口煽った。
少し離れた場所に座っている師匠―紅は乱れた金色の三つ編みを結い直していた。


「ミナト」

「ん?」

「水、くれ」

「ああ……はい」


閉めかけていたキャップを外してペットボトルを渡す。
水を煽る世羅の喉が微かに上下する。
世羅の喉から目を外して、再度空を仰いだ。
何度見ても、忌々しくなるほど青く晴れた空だった。


「……青空は、嫌いだ」


ポツリ、と。
隣で聞こえた声に、ミナトは同意も否定もしなかった。
ただ、両目が痛い。


「そろそろ、始めるか
今度は二人でかかってこい」

「はい」

「手加減、しませんよ」

「する暇があるのならすればいい」


紅の声に、二人はすっくと立ち上がる。
そうして駆け出す頃には、もう今までの考え事など吹っ飛んでいった。
決して本気ではない紅に向かう時、そのときだけ。
何も考えなくて済むのだ。





ここははじまりの町、ワカバタウン。
風と共に生きる町。


prevnext

top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -